第74話 おままごと(4)疑似家族

 コーヒーを飲んで、はあ、と溜め息をつく。

「あの双子の母親は、2人を生んですぐに離婚。これまたすぐに新しい恋人と暮らし始めたものの、2人で子供に虐待を繰り返し、とうとう死亡。遺体はあの空き地――元はあそこは畑らしいよ――に、埋めた、と」

「死んだ双子は、優しい家族を欲しがって、次々と人を呼び込んだというわけだ」

 事件の背景を調査した結果だが、どうにも聞いていて、気分が重い。

 それでやったことは悪いが、あの双子も可哀そうな人生だったらしい。その親と恋人というのに、心の底から腹が立つ。

「虐待するくらいなら、養子に出すでも、施設に預けるでもした方がましだ」

 徳川さんが吐き捨てるように言って、コーヒーを飲む。

「それでも親の愛情を求めて、偽物でもいいからと、家族を作ろうとしたんだな」

 ままごとの家族でも、満足だったのか。

 ほかに、やりようはなかったんだろうか。

 ああ、何か悪い事したかなあ。

「怜、お前は悪くないぞ」

「そうだよ。さっさと成仏して、生まれ変わって幸せな人生を歩めば、そっちが正解なんだから」

「そう言えば、吉井さんのところ、奥さんが妊娠したそうだよ」

 直がふと思い出したように言う。吉井さんとは、裏の警察署にいた時に兄と組んでいた先輩刑事だ。

「なんでも、双子らしいよ」

「双子か」

「どうやら男の子と女の子らしいね」

 生まれ変わりなんて信じてはいないけど、何か、幸せになって欲しいと思う。

 ただ、確か奥さん、料理が、あれだったんじゃないかな。

「最初からその味で育ったら、おふくろの味だ。不味くはないのか……」

 兄が同じ事を考えたのか、呟いて考えこんだ。

「……まあ、そうかな」

「奥さんの料理の腕が上がっている事を、陰ながら祈ろう」

 徳川さんが言って、皆で頷いた。

 どうか、幸せな人生を歩めますように。

「でさ、御崎君。その手前、結婚なんだけどね。見合いの話を預かっててね」

 徳川さんが、カバンに手を伸ばす。

 見、見合い!兄ちゃんにか!?

 声も出ない。

「課長。自分はまだ、結婚する気はありません。お断りして頂けますか」

「見もせずにかい?」

「見てからでは失礼かと」

「全く。予想通りだなあ。まあ、いいや」

 徳川さんはあっさりと、釣書を出すことなくカバンから手を離した。

「じゃあ、そろそろ飯にしますか」

 今日は報告会という、夕食会なのだ。

「お腹空いたあ。怜、手伝うよ。

 で、今日は何?」

「鍋だ。カワハギでちり鍋。あとは雑炊」

「お、いいねえ」

 鍋は家族で、仲間で囲むのが美味しく、幸せな気分になる。材料の種類が多くて面倒臭かろうが、白菜が重かろうが、鍋はいい。

 リビングで、コンロとアルコールの準備を始める兄と徳川さん、皿を運ぶ直を見ながら、自分は恵まれているなあ、これがずっと続けばいいのに、と思った。







 

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