第75話 ねがう(1)決戦は2・14

 テレビをつければチョコレート。雑誌の見出しはバレンタイン。校内も、そんな空気が満ちていた。

 キャッキャとした浮かれた一派あり。

 かと思えば、妙に真剣な一派あり。

 そして、期待と諦めの入り混じった男子達。

「必ず告白が叶う方法なんてないな。あるとすれば、既に答えを知っている相手に渡すくらいかな」

 僕と直のところには、かつて無いほどの女子が、休み時間の度に相談にやって来た。

 大概の女子は残念そうに肩を落として帰って行くのだが、中には「どうしてもライバルを排除したい」という強硬派もいて、殺人の従犯覚悟ならゴルゴ13でも雇えと言いたい。

「はあ。これがバレンタインまで続くのか」

 僕は溜め息をついた。御崎みさき れん、高校1年生。去年の春突然霊が見え、会話ができる体質になった上、夏には神殺し、秋には神喰らいという新体質までもが加わった、新米霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、春の体質変化以来、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「ヘタしたら、来月のホワイトデーまでだねえ」

 町田 直、幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。夏以降直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、新進気鋭の札使いであり、インコ使いでもある。

「えええ……面倒臭い」

 直はちょっと笑った。

「それより小耳に挟んだんだけど、夢で会いたい人に会えたり、願いを叶えたりできる社があるらしいよ」

「解釈の仕方で、とかいうものか?」

「詳しくは知らないけど、昔から、旅に出る前とか戦争に行く前とかに参っておいたら、夢で会えたらしいね。

 後は、バレエの発表会で、ライバルが急に鬱になって入院して主役が回って来たとか、一度は振られた相手と交際できるようになったとか」

「……胡散臭い話だな」

「うん。外道の術師とか、関わってないかなあ」

「もしそうなら、大変だな。見に行ってみるか」

「そうだねえ。少しでも早いうちがいいかもねえ」

 というわけで、男2人、放課後にその社へ行ってみた。広い空き地のような所に小さな社がポツンとあって、横手には「特別祈祷所」という看板の出た小屋があった。

 バレンタイン前という時期もあってか、9割以上が女性だった。ハッキリ言って、僕達は浮いている。

「うわあ」

 慄きながら、列に並んで順番を待つ。

 やっと順番が回って来たので社の中を見ると、奥に女性の石像があり、札に「結女の神」と書いてあった。手前には小さめの像が左右にあり、各々、「不動明王」「茶吉尼天」と書かれた札がでている。

「その鈴を振ってお願いするのよ。心の中で自分の名前を言ってね」

 親切に後ろの女子が教えてくれたので、形ばかりでもと、各々鈴を手に取る。その瞬間、ピリッとした静電気のようなものが通った。神気だ。

 ふうん。

 では、打ち合わせ通り。御崎 怜。直と夢で会えますように。

 一応祈って、社の前を離れる。

「弱いけど、神気があったな」

「一応協会に知らせておく?」

「そうだな」

 僕達は並んで社を後にした。


 僕は週に3時間程しか睡眠を必要としない無眠者という珍しい体質で、ついこの間寝たところなので、眠くなるのはおかしい筈だった。

 だがどうしたわけか、今日に限ってはやけに眠い。眠いと思ったら、不自然な感じで眠りに引きずり込まれていた。


 それが夢だと、わかっていた。

 目の前に直がいる。

「へえ。本当に会えるのかあ」

「これだけなら、まあ、害はないな。ライバル云々とかは特別祈祷かな」

「そっちも検証する、怜」

「誰か、女の人に行ってもらった方が良くないか?目立ちすぎる」

「そうだねええ。何か企んでても、警戒されるかもねえ」

「じゃ、そういう事で」

「ん、じゃあまた明日」

 言ったら、目が覚めた。

「うわあ、変なの」

 目覚めたら、頭が重かった。







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