第69話 氷姫(4)救助隊、来ず
限界だな。
白井さんは体力的に、桃山さんは精神的に。保科、村園、守尾は、意外と逞しい。もしかしたら、分かっていない可能性もあるが。
それともうひとつ。新たな霊が、接近してきた。
まるで、弱った獲物を見つけて狙ってくるように。
「直」
「了解。こっちは任せて。
怜も離れすぎないでよねえ」
お堂の中の気温を下げないように、素早く外に出る。
視界は真っ白で何も見えない。それどころか、雪と風に、目を開けているのも困難だ。
気配で、方向、距離を測り、右手に刀を出す。
見てないだろうな、銃刀法違反の現場を。
いきなり距離を無視したように詰めて来るのを、無造作に斬る。話の出来る時期を過ぎ、亡者となっている霊体達だった。が、氷姫とも違う気がする。そういう恨みでは、なかった。
手早く片付けて、直の気配を辿るようにお堂に戻る。
幸い、雪と風が、いい目隠しになったようだった。
「何かあったのか」
「いや、別に。気分転換だ。気にするな」
「眠いしなあ。少し動いて目を覚ますか」
保科、村園、守尾、赤井さん、緑川さん、青柳さん、桃山さんは、立って室内をグルグルと歩き始めた。
その間に、直と小声で相談する。
「氷姫じゃなさそうだったが、片付けた。
なあ、不眠も限界だろう、皆」
「そうだねえ。そろそろ……」
「札を1枚使ってここの室温を上げて、その間だけでも熟睡した方がいいんじゃないか」
「氷姫が来たらまずくないかな。いや、あれが氷姫で、本性を隠してるのかも知れないけど」
「なんとかする。それより切実に、こっちがやばいだろ」
歩きながらでもフラフラと、寝落ちしそうなやつもいた。
白井は、却って熱が下がってきたようだが。
「いざって時に動けないんじゃ、困るしな」
「わかった。でも、これを全部温度を上げるのに回しても、全部で5枚しかないからね」
「熟睡したら、しばらくは起きててもいけるだろ」
「ん、わかった。そうしよう」
「その間、僕は出てるよ。襲われて迎撃するのに、結界を壊したら勿体ないからな」
「じゃあ、保温で1枚持ってたら」
「いや、温存しとこう。天候の回復がいつになるかわからないからな。
それより、提案したら、ギャンギャン言われるぞ。もっと早く出せとか、隠して使ってたんだろうとかな。
ああ、想像するだけで面倒臭い」
直は噴き出してから、真面目な顔で言った。
「危ない事はするなよ、怜」
「任せろ。安全志向が信条だ」
お堂の中心に固まって、皆が熟睡している。白井さんの顔色も随分いいし、皆も、安らかに寝ている――と言うと、不吉だな。
1人でひっそりと笑って、結界の外側に座る。
遭難者の霊が彷徨って来たので、祓ってきたのだ。
その前は夏に川で亡くなった人で、見た目にも海水パンツ1枚と、寒かった。
白い影は、相変わらずつかず離れずの距離にいた。
救助隊は来ない。天候は回復しない。
さて、どうしたものか……。
白い影は、敵か、味方か。
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