第35話 探す・直(3)相棒

 社長はシャベルを構えていた。

「忘れ物ですかあ」

「ああ。ライターと、目撃者を消すことだがね」

「目撃……ボク!?」

「お前は電話のヤツだな。強請ろうったって、そうはいかん」

<強請った?>

<いいや>

 油断なく、社長から距離を保つ。

<最悪、時間稼ぎすればいいよ。今、怜に電話したから、すぐに司さん──お兄さんで刑事なんだよ──に連絡して、来てくれるよ>

 すごく遠いけどね。

「強請りはしてませんけどねえ。

 この2人を殺して、埋めて、横領して逃げ出したと思わせるつもりなんでしょう?セコイなあ」

「ほお、よく事情まで知ってるようだな。お前、一体誰だ」

「さあ?」

 シャベルを持つ手に力が入り、社長はシャベルを振りかぶると、鬼気迫る形相で突っ込んで来た。


 空が、高い。

 視線を下ろすと、失神した社長と2体の遺体が並んでいた。

 凄い眺めだけど、何があったんだっけ。

 首をひねると、チャンネルが合うように、男の声がした。

<色々助かったよ。ありがとう>

<いや、なんか、記憶が飛んでるんだけど……>

<俺の体も動かすので、ちょっと加減が難しくてな。意識が飛んでたみたいだ。

 社長は、ゾンビとか怨霊とか喚いてたけど、失神したよ>

<初めまして。俺とこいつが随分世話になったみたいだな。ありがとう>

 先に亡くなった、親友の方らしい。

<いえ、初めまして。あの……大変な目に合われましたね>

<これも運命かな。仕方ないよ。まあ、こいつがいるから、あの世でも楽しくやれるさ>

<君も、親友は大事にしろよ>

 また、代わったようだ。

<うん>

<じゃあな>

 それで、2人の霊は逝ってしまったらしい。

 なんか、寂しくなってしまった。無性に、怜の顔が見たい──と思ったら、パトカーのサイレンが近付いて来ていた。

 

 司さんと駆けつけて来てくれた怜は、地元の警察署のドアを蹴破る勢いで飛び込んできて、ボクを上から下まで眺めたあと、無表情のまま、

「ん、そうか」

と言った。

 表情に出にくいけど、長い付き合いだからわかる。あれは、無事を喜んでいる。

「へへへっ。心配かけちゃって」

「全く、面倒臭い。

 まあ、ちゃんと逝ってるみたいだし、大丈夫だな」

「ああ、うん。それがねえ……」

「?」

 てへ、と笑う。

「後遺症というか、これがきっかけというか、見えるままになっちゃったみたいだよ」

 怜と司さんは少し沈黙し、

「大丈夫。僕も通った道だから」

と、言った。

「よろしく、怜」

 見てるかなあ、あの2人。これがボクの相棒だよ。


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