第34話 探す・直(2)体、貸します

 これは、夢だとわかっていた。こういうのを明晰夢とかいうんだったと思う。

 知らない20代半ばくらいの男が目の前にいた。そいつは真剣な顔で、ボクに言った。

「済まない。しかし、どうしてもあいつを探さなければいけないんだ。体を貸して欲しい」

「あいつ……」

「親友だ。行方不明になったが、社長に殺されたに違いないんだ。俺を殺したように」

「殺されたんですか、あなた?」

「ああ。社長を問い詰めたら、殴り殺された。

 頼む、協力してくれ。あいつが見付からないと、あいつと俺が横領と違法献金の罪を着せられて、妹の縁談が破断になってしまうし、あいつに罪を着せられない。俺達は親友だからな」

 ああ、細かい事情はわからないけど、わかった。

 あの社員章に触った時、この人が憑いたんだろう。

「体を貸したら、死ぬとかそのまま乗っ取られるとかは……」

「そんなことはしない。約束する」

 親友は大事だもんな。良し。

「わかった。協力してもいいよ。

 ただ、記憶が無くなるのは勘弁して欲しいんだよね」

「わかった。ありがとう。感謝する」

 それで、夢からさめた。


 田舎近くの山中を、ボクは歩いていた。

 交通費で完全にデジカメを諦める羽目になったし、お気に入りのシューズは泥だらけだったけど。

<どう。まいたかな>

<ああ、どこかに行った>

 霊が見える事に霊に勘付かれると、追って来るやつがいるのだ。

 それにしても、頭の中で直接会話できるのはいいなあ。春に怜に憑りついた先輩と会話するのに、怜の独り言みたいになってたから、人前では困ってたもんなあ。

 思い出したら、笑えてくる。

<怜君っていう子と、仲がいいんだな>

<幼稚園からの、無二の相棒だよ>

<そうか……>

<頭の中で会話できるのって、普通なの>

<多分、憑いていればな。その先輩が不器用だったか、思いもしなかったか>

<ああ、どっちもあり得る……>

 1人でヘラッと笑いながら、道なき道を進む。

 と、生い茂った雑木林の中に、壮年の男の姿が見えた。

<社長だ>

 直は身を屈めて、様子を窺った。

 その男は懸命に地面にシャベルを突き立てていたが、やがて手を止めると、その穴の中を覗き飲んで、大笑いを始めた。

「ちゃんとここにあるじゃないか。あはははは!」

<あれ、何?>

<君の体を借りて電話をかけたんだった。あんたが殺した男の死体がここにあるって。ボロを出すかと思って>

<出したかも。どっちか、いや、どっちもかも>

 社長が再び穴に土を入れ、フラフラと近くの高そうな車に乗り込んで帰って行くのを見て、そろそろと確認しに行く。

<どうするんだ>

<掘り起こして、警察に知らせるんだよ>

 穴は2つ並んでいた。

 掘るものがないので、その辺の板切れで掘る。

 やがて、夢で会った顔が出て来た。

<俺だ……。じゃあ、こっちが、あいつか>

 もう片方を掘る。

<ああ。こんなところに……>

 胸を締め付けられるように苦しい。

 と、背後から声がした。

「何をしている!?」

 恐ろしい顔の、社長がいた。







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