本当にあった怖い話8「サトウキビ畑」
詩月 七夜
サトウキビ畑
※ ※ ※ ※ 注 意 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
本作には猟奇的な表現が含まれております。
また「
もし、お読みなり、前記の症状が発生しても、それは個人の責任であり、当方は一切関知いたしませんので、予めご了承くださいますようお願いいたします。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
“四指ビリーは 愉快なピエロ
だけど とっても慌てんぼう
今日もお庭で 植木のお手入れ
大きなハサミで チョッキンキン
ついでに 指までチョッキンキン”
アメリカ。
第二次世界大戦をほぼ無傷で切り抜けたこの国は、世界経済を掌握し、1950年代には空前の繁栄を遂げた。
しかし、1960年代になると、日本や西欧州各国が台頭し始め、その繁栄に陰りが見え始めた。
貧困や人種差別問題などが浮き彫りになり、ベトナム戦争の長期化や財政赤字により、社会情勢が不安定なこの頃、某州の片田舎で、ある事件が起きた。
今回は、その事件について語る。
その町…仮にヘイブンと呼称する…は、周囲に農地が広がる小さな町だった。
鉄道もなく、寂れたハイウェイが一筋通り、それとは別に小さな街道が残るだけ。
町には大きなマーケットなどは無く、雑貨屋や酒場のみがあり、あとはほとんどが農家である。
人口も300人ほどで、若者は学校を卒業するとすぐに都会に旅立ち、後には小さな子供と疲れた大人のみが取り残されるばかり。
退廃が静かに近付きつつある中、それでも町は安寧に包まれており、警官が銃を抜くような事件とは一切無縁な町だった。
そんな小さな町が、恐怖に包まれたのはある夏の暑い時期のことだ。
とある昼下がり。
隣の町の郵便局に勤めていた郵便配達員は、ヘイブンに向かう途中にある広大なサトウキビ畑を貫く街道を、自転車で通過していた。
その折に、郵便配達員は小さな悲鳴を聞く。
自転車を止め、周囲を見回す郵便配達員。
しかし、彼の周囲には風に揺れるサトウキビが広がるのみ。
気のせいかと思い、自転車を発信させようとした瞬間…
べちゃり
彼の顔面に何か固いものと生暖かいものがぶつかった。
慌てて手で顔を払い、手についたものを見て、彼は息を呑んだ。
それは真っ赤な血だった。
一瞬、自分のものと錯覚し、貧血症状になる郵便配達員。
が、自転車から転げ落ちそうになった彼の目に、更に衝撃的なものが飛び込んで来る。
彼の足元には、二つの細長い物体が転がっていた。
それは、ちょうど絵の具のチューブほどの大きさで、真っ赤な血に染まっている。
呆然と手を伸ばし、拾い上げたそれを間近に見た彼は、今度こそ絶叫した。
拾ったそれには、小さな爪がついていた。
そう。
それは二本の子供の手の小指だったのだ。
ほうほうの体で逃げ出した郵便配達員。
息も絶え絶えになってヘイブンに到着すると、まっすぐに警察署へ駆け込む。
血相を変えて、血まみれのまま飛び込んできた彼を見た警察官は、すぐに現場へ急行。
生々しい事件現場には、まだ血と子供の指が転がっていた。
ヘイブン警察署は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
すぐに増援の警官が呼ばれ、大掛かりな捜査が開始された。
しかし、その捜査の過程で悲劇が起きる。
数日前から行方不明だったヘイブンにある農家の娘、シェリー(享年5歳)が、サトウキビ畑の近くで無残な遺体で発見されたのだ。
そして、彼女の両手の小指は、切断された状態だった。
点と点がつながり、一つの線となったこの事件は、その猟奇性により、付近で大変な騒ぎになったという。
警察は捜査方針を洗い直し、殺人事件として犯人を捜し始める。
が、周囲への聴き込みや現場検証も空しく、犯人の手掛かりは一向に掴めなかった。
そうこうしているうちに、二人目の犠牲者が出た。
大工の息子、ジョーイ(享年6歳)が行方不明になったとの騒ぎが起き、その三日後、彼は遺体となってサトウキビ畑の給水塔に逆さ吊りにされた姿で発見された。
そして、その両手の薬指が切断されていたという。
人の所業とは思えない、この連続殺人事件に親達は皆一様に震え上がった。
不意に沸き上がった一連の事件に、警察も犯人探しに躍起になった。
が、一向に犯人の手掛かりになる情報は得られない。
そうこうしているうちに、第三、第四の犠牲者が出てしまった。
第三の犠牲者となったのは、理髪店の息子のトム(享年5歳)。
四肢をバラバラにされた無残な姿で発見された。
第四の犠牲者は、農家の娘イリーナ(享年4歳)。
留守番をしていた実家から行方不明となった後、髪を丸刈りにされた上、手足を縛られた遺体で見つかった。
いずれも遺体はサトウキビ畑の近くで発見され、トムは両手の中指を、イリーナは人差し指を切断されていた。
警察も焦っていた。
手掛かりは子供ばかりを狙っていること。
そして、特に性的暴行の跡もなく、その指を順番に切り落とすという異常性だけだ。
現場には遺留品もない。
執拗に聴きこみも行われたが、犯人らしき人物は浮かび上がらなかった。
そもそも、ヘイブンは小さい町であり、住人も少ない。
お互いに妙な動きがあれば、すぐに隣人にもばれるくらいに生活圏が手狭なのだ。
そんな中でも、犯人に関する情報が浮かび上がらないのは、極めて不自然だった。
手詰まりになりつつある捜査。
そんな中、警察の元に一人の少年が訪ねてくる。
その少年…カイルは、みなしごだった。
住む家もない浮浪児だったカイルは、農家の手伝いなどで日銭を稼ぎ、近郊の空き家や廃墟で夜露を凌ぐ生活をしていた。
そんな彼が、警察に告げた。
「サトウキビ畑で、歌う
警察は当初、彼の言葉を歯牙にもかけなかった。
しかし、一人の刑事がカイルが真似た「歌うピエロ」が口ずさんでいたという童歌に注目した。
“四指ビリーは 愉快なピエロ
だけど とっても慌てんぼう
今日もお庭で 植木のお手入れ
大きなハサミで チョッキンキン
ついでに 指までチョッキンキン”
それは、この地方では昔から歌われていた
特に由来もなく、誰が歌い始めたのかも分からない歌だ。
しかし、その内容は今回の事件に符合するものでもあった。
実際、殺された子供たちの指は、大きなハサミのようなもので切断されたと検死結果も出ていた。
刑事は部下を連れ、カイルの案内でピエロを見たという場所に赴いた。
そこは、子供達の遺体が発見された場所から、それほど離れていなかった。
早速、警察による捜索が行われたが「歌うピエロ」やその痕跡は一切見つからなかった。
その次の日。
最後の犠牲者が見つかった。
それはカイルだった。
例のサトウキビ畑の中で、両手の親指を切断された無残な遺体となって発見されたという。
そして、今回の事件では初めて目撃者が出た。
目撃者は、一人の新聞配達員だった。
彼は、当日朝早く隣町からヘイブンに配達に赴いていた。
サトウキビ畑に差し掛かった頃、彼はサトウキビ畑から出て来た怪人物と遭遇。
それは赤毛に黄色い吊りズボンのピエロだった。
ピエロは、唖然となる新聞配達員を横目に、道路を横断していく。
そして、彼に気付くと、おどけた表情とパントマイムで挨拶し、こう言った。
「親指、いるかい?」
そうして、血まみれの子供の親指(後日、カイルのものと判明)を新聞配達員に投げつけ、慌てる彼をゲラゲラ笑いながら指差し、歌を歌いながらサトウキビ畑へと消えていったという。
“四指ビリーは 愉快なピエロ
だけど とっても慌てんぼう
今日もお庭で 植木のお手入れ
大きなハサミで チョッキンキン
ついでに 指までチョッキンキン”
後日、新聞配達員は震えながら警察に語ったという。
「あれは絶対人間じゃない。俺を見ながら笑っていたあいつの表情…あれはまさしく悪魔の笑顔だった。きっと、あれはピエロの形をした悪魔だ。だって、あいつは…あいつの指は四本だけだった」
カイルの殺人事件後、連続殺人は不可解にもピタリと途絶えた。
その後も、警察が躍起になって捜査を行うも、結局犯人の特定には至らず、この事件は迷宮入りを迎えたという。
大国アメリカが孕んだ暗黒の時代。
そんな昏い時代の闇に呑まれるように、この事件は、警察の記録に小さく残されはしたものの、やがて時間と共に、人々の記憶からは薄らいでいった。
はたして、犯人は何者だったのか?
動機は?
今も生きているのか?
そして…本当に人間だったのか?
すべては謎のままである。
本当にあった怖い話8「サトウキビ畑」 詩月 七夜 @Nanaya-Shiduki
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