第2話 ふたりの夢

 藤沢駅を出発した電車は、冬の透き通った空気から乗客を守りながら、本鵠沼ほんくげぬま鵠沼海岸くげぬまかいがんに止まり、片瀬江ノ島駅へと向かう。乗車口に立っていると、ガラスからわずかに冷気がただよってくる。

 藤沢駅を出発してしばらくして、

「それで、言い訳は?」

と、麻衣が不機嫌ふきげんそうに聞いてきた。どうやら、少しでも早く江ノ島水族館に行きたかったため、改札では何も言わず、お仕置きは電車の中でするつもりのようだ。

「夜遅くまで勉強してたら寝過ごしちゃって、すいません」

 下手に機嫌をそこねるわけにもいかないので、事実を伝えて、素直に謝っておく。

「あんまり面白くないわね。ま、本当みたいだからいいけど」

 残念そうに咲太を見つめる目は、何か面白い言い訳を期待していたようだ。咲太の言い分に納得したあとに、

「勉強って、何のための?」

 と、いじわるな笑みを向けてきた。どうやら、麻衣と同じ大学に行くために勉強していることを言わせたいらしい。麻衣の方からご機嫌取りの方法を教えてくれているから、ありがたく乗らせてもらうことにするが、ちょっとだけ意地悪をする。

「大学受験の勉強です。大好きな麻衣さんと同じ大学に行きたいですから」

 大好きの部分を強調して麻衣に視線を向ける。麻衣は視線をそらして、恥ずかしそうにうつむいている。

 ブーツを履いた脚が持ち上げられ、咲太の足元へと迫ってきた。かかとで足を踏まれるのかと思ったが、ブーツは咲太の足の近くに降ろされた。

 そのままの勢いで麻衣が体をゆっくり寄せてくる。俯いたまま、麻衣が手をつないできた――。

 電車はゆっくりと片瀬江ノ島駅に止まった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る