第27話 作戦会議―その3

「じゃあ、聞いていなかったカグラさんのためにも、もう一度説明しますよ」


 マリアは嘆息しながらも快く再度の説明を行ってくれた。


「マリアがあの男をつけていて気になったことは、ここの洞窟への出入りが多かったことです。さすがのマリアでも中の構造が分からない洞窟で尾行していくというのは見つかる危険もあって出来ませんでした。でも、夜になると必ずその洞窟に戻っていたので調査の拠点にでもしていたんじゃないですか?」


 マリアは広げられたキリルの地図に青ペンで印付けされている箇所を指さしていた。そこは【カレキ山】の裏側、中腹辺りの大きな洞窟だった。距離としてはここから北西に4時間ほど進んだところだろうか。そこには赤ペンでの印付けはなく、大型の魔物の縄張りではないことも分かる。


 龍の刺青の男が拠点にするには申し分ない場所だ。俺としてはあの男が拠点にしていた場所は調べてみる価値がありそうな気がする。

 他の3人の反応はどうだろうか。


 ジェシーは「奴の拠点と蜂共は関係ない。お前らが探している奴とも関係ないだろ」と言う。


 そして、マリアも「私は拠点だと思うし、別のところを探した方がいいと思いますよー」とジェシーに同意する形だ。


 しかし、キリルは「ここまで情報を出し切っても目ぼしいところはあの男の拠点ぐらいだ。それより、時間が惜しいから早く確認しに行くべきだ」とおおむね俺と同じ考えのようだ。だけど俺はキリルの考えの根底に何か別の感情があるような気がする。


 廃村でのキリルの取り乱し方は尋常ではなかった。まるで、あの男に対して深い憎しみを抱えているように見えた。

 ……もし、その感情が憎悪だとしたらキリルの考えも客観的なものとは言えない。


「私もキリルの考えに賛成です。少しでも情報が欲しい状況ですからね。とは言え確認しに行くだけなので人数はいらないと思います。そこでマリアとジェシーにはここで情報を集めて欲しいです。私はそれが1番効率がいいと思うんだけどキリルはどう?」


 ……だとしても、俺はキリルの相棒だ。彼が1人で突っ走るかもしれないというのに放置は出来ない。それに俺もあの龍の刺青の男を1発ぶん殴らないと気が済まないしね。

 笑顔でキリルに問いかけると相棒も笑って応えた。


「OKだ。それじゃあ、俺たちは行くからてめぇらは情報集め頼んだぞ」


 そう言うとすぐにキリルは広げた地図を仕舞って、そそくさとテントを後にしてしまった。私もキリルを追ってテントを後にしようとするが、マリアが動揺を隠せない様子で声をかけてきた。


「え? 今から行くんですか?」


「そうだけど、何かおかしかった?」


 そこまで考えて俺は1つ言い忘れていたことを思い出した。


「あ。もし、私たちが3日以内に戻らなかったら助けに来てくれないかな?」


「そうじゃなくて、明日の朝に出ればいいだろってことだ」


 割って入ってきたジェシーの考えは最もだ。俺たちはもう丸1日動きっぱなしなんだから。だけど、それは大した問題じゃない。


「なんだそんなことか。首都【ブルノイユ】でお父さんの帰りを待っている子供たちがいるんだ。その子たちのお兄ちゃんは今、兄弟のために必死に冒険者としての仕事を全うしているはずなんだ。だからさ、早くお父さんを見つけてあげないと彼らが心配しちゃうだろ?」


 じゃなきゃ誰がサーズを褒めてやれるというのだろうか。


 ――だから、俺たちは一刻も早くサーズのお父さんを見つけてあげないといけない。


「じゃあ、そういうことであとはよろしくね」


 テントを去る間際にマリアとジェシーに手を振って俺は彼らと別れたのだった。そして、俺がテントを出たところでは案の定キリルが待っていてくれた。


「おまたせ」


「無事、あの坊ちゃんと別行動できてよかったぜ」


 そう語るキリルの表情はどこか寂しさを感じられた。きっと彼は口ではあぁ言っているが、最後は4人でしっかりと話し合うことが出来ていた。お互いに最初の印象が悪かっただけで、分かりあえばなんてことはないということだ。


「なんだカグラ。ニヤニヤしやがって気持ち悪ぃ……」


 まぁ、キリルのことだ。そんなことを言うと照れて否定してしまうのが目に見えている。


「何でもないよ。さぁ、行こうか」と俺は誤魔化して答える。


 俺たちは2人だけで龍の刺青の男が頻繁に出入りしていたという洞窟を目指して行くんだった。


「って、カグラ。おい!」


「ん? なに?」


 意気揚々とキリルの前を歩いて進んでいこうとする俺を相棒は制止した。それにつられて振り返ると相棒は困ったように頭を掻いていた。


「そっちは目的地の方じゃねぇぞ。ったく締まらねぇな」


 顔がカァーっと熱くなっていくのが分かる。ひどく恥ずかしい気分だった。やりようのない気持ちを相棒に八つ当たりしてなんとか平静を保とうとした。


「なんでもっと早く言ってくれないのさ!」


「悪ぃ悪ぃ」と笑う相棒はどこか楽し気でそれだけで俺も楽しくいられる気がした。


「そんじゃ、いっちょサーズの親父を助けに行くとするか」


 向かうは北西の大洞窟。


 もう随分と歩きなれた【カレキ山】を進んでいった俺たちは途中で仮眠をとることなく夜の山を駆け抜けていった。

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