第25話 作戦会議―その1
ジェシーたちのテントは小さいが4人なら十分くつろげるゆとりがある。しかし、リュートさんのテントに比べると随分とみすぼらしい造りでテント中央にテーブルが1つに椅子が4脚、テント端にはジェシーとマリアの荷物置き場になっているサイドテーブルがいくつか置いてある。
マリアとジェシーの2人組はテントに入れば外套を脱ぐかと思っていたが、マリアだけはそうでもないようだ。ジェシーは小柄の少年で茶髪を短く切りそろえており仕事をサボっていたためか綺麗な鎧も相まって清潔感を感じられる。
中央テーブルを囲んで4人が席に着いたところでキリルが口を開いた。
「初めに確認しなきゃならねぇことがある。【カレキ山】の裏側を調査したのはマリアだけでそこのお坊ちゃんはやってねぇんだよな?」
キリルはあえて「お坊ちゃん」の部分を強調して話した。明らかにジェシーを挑発している。めんどくさいジェシー君のことだすぐに熱くなってキリルに突っかかてしまうかもしれない。キリルがそれを理解していないはずがないのでわざとに違いない。割って入るタイミングを見極めたいといけないか。
「僕はお坊ちゃんじゃない。ジェシーだ。それにマリアは僕の手下だから、マリアの手柄は僕の手柄だ」
「おーそうかいそうかい」
「ふん、分かればいいんだ。それに僕は――」
飄々とした態度で応じるキリルに対し、鼻を鳴らしながら自慢げに語りだそうとするジェシー。お坊ちゃんの次の言葉を遮ってキリルは一切の興味もないかのように冷たく言い放った。
「じゃあ、てめぇに用はねぇ。端っこで始末書でも書いているんだな」
「このッ――!」
「「まぁまぁまぁ落ち着こう?」」
キリルに殴りかかろうとするジェシーを俺とマリアの2人がかりで抑える。ジェシーの相手はマリアに任せて俺はキリルに説教とまではいかなくても叱るぐらいはしようと心に決めた。
「キリル落ち着け。あんなお坊ちゃん相手にしている暇は今の俺たちにはない。どうしてもあいつが気に入らないなら、俺が代わりに話を進めるが構わないか?」
「チッ……俺は冷静だ。だがな、俺はあいつみたいな上から目線の奴が心底気に入らねぇ。一緒に行動することになっても連携は取らないからそのつもりで交渉してくれ」
それだけ言うとキリルはそっぽを向いてしまった。どうやらまだ機嫌が悪いようだ。キリルに喋らせるのは止めて私が代わりに喋るとするか。
どうやらジェシーもキリルと同じくそっぽを向いたままで、あちらさんも苦労人のマリアちゃんが対応するようだ。
「まずはお互いに自己紹介ですよ。マリアの名前はマリア・ノーヴィスです。ジェシーさんの護衛としてこの隊に所属しています。直接の戦闘能力はお二方に劣りますが、隠密には長けている自信があるんです。ステータス、オープンです」
_______________
マリア・ノーヴィス
17歳 女性
職業:盗賊
称号:カルダッカの見習い騎士
_______________
マリアは明るい口調で身振り手振りを使いながら話し、最後には名刺代わりにステータスを見せてくれた。
やはり職業は盗賊か。これは予想の範疇だが、種族を明かさないのは何か事情があるとみて間違いないのだろうか。外套を脱がないのも関係があるかもしれない。あとでキリルと相談してみよう。
「どうも始めまして私の名前はカグラです。Dランク冒険者で今回は人探しのためにここに来ました。ステータス、オープン」
互いに慣れた手つきで自己紹介を済ませ、俺もステータスを開いて相手のマリアちゃんに見せる。
_______________
カグラ・アステライト
18歳 女性
種族:ヒューマン
職業:勇者
称号:異世界からの旅人
_______________
「すごい情報量じゃないですか。マリアなんかがこんなの見ちゃってもいいんですか?」
マリアは首をかしげておどけた仕草をとっている。フードを深く被っているため表情こそ伺うことは出来ないが、こちらにもしっかりと感情が伝わってくる。
「特に気にしていません。一緒に行動していればすぐに分かってしまうことですからね。ところで、マリアさんはそのフードを取って素顔を見せてはくれないのですか?」
ここで切り出す。たしかに燃やしたはずの4体の死体。だというのに、彼らは生きていた。謎の鍵は彼女の種族にあるはず。ジェシーの可能性もあるが、お坊ちゃんだろうしあの緊迫した状況で咄嗟に動けるとは思えない。あれは彼女の仕業だ――
「だめです!」
マリアちゃんは顔の前で手をワタワタとさせて動揺してる。そして「素顔は恥ずかしくて見せられないんです。なんてったって乙女の秘密ですからね!」と言われてしまった。元から深く被っていたフードを両手で掴んでさらに深く被ってしまい、これ以上は強引な手を使うしかないためマリアちゃんのことを今解決するのは無理なようだ。
俺は微笑みながら彼女の手を取りながら話す。
「いや、ごめんなさい。そこまでして見たかったわけじゃなくて……乙女の秘密なら仕方ないです。これ以上マリアちゃんの素顔については何も言わないようにしますね」
「わぁ~! そう言ってもらえてマリア嬉しいです。ジェシーさんと金髪の怖い方は自己紹介しないみたいですし、マリアたちだけで話を進めましょうか」
未だにそっぽを向いている2人に視線を向けながらさっきまでの明るい調子で話すマリアちゃん。どうにも引っかかる感じがするが今は置いておくしかない。
「私たちの騎士団がここ【カレキ山】に来たのはつい2日前で、その目的はサーズ君のお父さんと同じで【カレキ山】の異変の調査です。初日は半分を行軍で使い、残りを調査とキャンプの設営に当てました。2日目の昨日から調査を本格的に行いました」
ふむ、俺たちがジェシーたち3人組と遭遇したのは昨日の夜。騎士団が本格的に調査を始めた日の夜か。あの時にマリアはいなかった。3人の会話内容から推測は出来るが一応確認をしておくか。
「私が最初ジェシーたちを目撃した時はマリアちゃんの姿が見えませんでしたが、その間マリアちゃんは何をしていたんですか?」
「マリアはカルダッカの冒険者ギルドで【カレキ山】の異変調査を受理した冒険者の後を出発からずっとつけていましたよ。だからマリアは騎士団よりも早く出発してて5日前には着いていたんです」
最後はなぜか誇らしげに胸を張ってマリアちゃんは答えてくれた。5日前……サーズのお父さんが出発したのは2週間くらい前ということは――約14日前か。
「あと、騎士団は首都【ブルノイユ】からの要請を受けてから出発していたのでマリアの出発と大きな誤差があるんです」
「要請……もしかしてニードルビーの大量発生と関係があるの?」
「そうです。騎士団内で【カレキ山】に異常が見られるから調査をしようという話があったのですが、実害が少ないため他の案件からあたっていました。そこでジェシーさんが他の騎士より手柄を立てようと抜け駆けして依頼を出したんですよー」
もちろん規約違反ですよーと笑いながらマリアは付け足していた。そんなマリアの態度をジェシーは馬鹿にされていると感じたんだろうか、いきなり席を立ちあがるとマリアを指さしながら怒鳴り散らした。
「おい、マリアッ! お前は僕の手下だろ。手下のくせに生意気なことを――」
「うっせぇぞチビ。静かに話を聞け」
だが、キリルがそうなる前にジェシーを制止した。
ここまで沈黙を貫いていた2人がついに口を開いた。とは言ってもすぐに黙ってしまったが、話がこじれるよりはマシだろう。きっとキリルもなんだかんだ言ってサーズのお父さんを早く見つけてあげたいのかもしれない。
「えーと……まぁ、そういうわけでジェシーさんは冒険者に『調査依頼だからサボってもばれないだろう』と考えられると困るため、マリアが冒険者の依頼遂行を見張っていたというわけです」
てへへと笑いながら話しをするマリアちゃんはどこか照れているようだった。すると、話も1区切りしたためかマリアちゃんは夕飯を人数分受け取りに行ってくれた。たしかに廃村で昼食を取ってから随分と時間が経っており、そろそろお腹が空いている頃合いで非常に助かった。
話を振るいいタイミングなのでジェシーにも話を聞いてみよう。
「そうだジェシーに聞いておきたいことがあったんだ。ジェシーが依頼を出したのは何日前? あと騎士団で【カレキ山】に異常が見られるから調査をしようという話が上がったのは何日前?」
「……どっちも6日前だ。依頼は出したその日に受理されて、冒険者は支度をするために1日を使っていた。【カレキ山】の調査依頼だからもう少し受理が遅いかと思っていたから驚いた記憶がある。仕方ないから僕は急いでマリアを呼び出してこの件について説明をしていた」
呼びかけに応じてくれるかは分からなかったが、話しかけると姿勢をしっかりとこちらに向けて答えてくれた。
俺はなるほどと頷きながら今度はキリルの考えを聞いてみようと視線を向けるが、まだ機嫌がよくないようで依然としてそっぽを向いており会話に混ざるつもりはないようだった。
ニードルビーの大量発生と【カレキ山】の異変はきっと関係性があるに違いない。キラービーの
俺がそんなことを考えているとマリアちゃんが4人分のカレーを持って戻ってきてくれた。ひとまず夕飯を食べてからまた考えよう。
……こういうのはキリルに丸投げしたいんだけどなー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます