第24話 異常
「君たちには悪いんだが、こちらで中年ぐらいの冒険者を見たというような報告は受けてないな。そこで、俺たちの騎士団が今回【カレキ山】を探索した中で見つけた遺留品やそれに類するもののリストを持ってきた。何か役に立てればと思ってね」
「そうですか、ありがとうございます。リストをお借りします」
カルダッカ騎士団副団長リュートさん。日ごろから鍛錬していることが外套の上からでも伺える筋肉に、無精ひげを生やしたオッサンと呼ぶかお兄さんと呼ぶか微妙な年代。彼のたくましい腕から紙にまとめられたリストを受け取る。
キリルの細腕とは大違いだ。
実はサーズのお父さんがどんな装備をしているかも分からないため、遺留品があったとしても気づけない俺だが、せっかく持ってきてもらったのでパラパラとページをめくり最後まで見ることにする。
剣やナイフ、兜に冒険者カードなど様々なものが遺留品として未だに残されている。その数は膨大でここで亡くなってしまった人たちの悲しさを物語っている。
「何か
「
「頼めるか?」
「まぁ、こちらが迷惑をかけたお詫びということで特別だよ」と言うと、リュートさんは奥の資料室にまた消えていった。
さて、また2人ぼっち。キリルの最初の質問の意図はサーズのお父さんの動向を知ることだと考えられるが、取得記録なんかを調べて何をしたいんだろうか。
俺が訝しそうな視線を送っているとそれに気づいたキリルが得意気に語ってくれた。
「サーズの親父は『【カレキ山】周辺の魔物の動きが妙なので調査に行ってくる』と言っていた。つまり、今ここは何らかの異常がある。それをさっき地図に書いた魔物たちの縄張りと
さすがキリル。俺には思いつかないようなことを簡単に思いついてしまう奴だ。だが、今日の俺は褒めない。
「――ふーん、そのくらい分かってたし」
そもそも知っていたかのように振る舞い、あいつを動揺させる。当然と言わんばかりの表情で。とはいえ、俺も何か見つけられない者かと、遺留品リストをペラペラとめくっていくが気になるのは鎧だ。腹部に大きな破損があると注釈が付けられたものが多い。これも異常との関係があるのだろうか。
そんなときだった。
「いやーお待たせ……って、また何かあったの?」
リュートさんが戻ってきたが質問の意図が分からず顔を上げると、キリルはなぜかくくくと笑いをこらえていた。対する俺はクールに取得記録のリストに目を通していたはず。不思議だが副団長はまた絶妙なタイミングで戻ってきたのだろう。
そして、そんな彼に俺たちはまたもや息ピッタリに「別に」と言うのだった。
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「怪しいのはこの辺りだな。廃村のさらに奥、【首都ブルノイユ】から見てちょうど【カレキ山】の反対側だ。やけにシザービー(PT討伐推奨Lv15)の
シザービーは【ブルノイユ西の草原】に大量発生していたニードルビーの上位種にあたる小柄な蜂の魔物だ。ニードルビーの代名詞である針の攻撃に加え、発達した大きな1対の鎌のように鋭い腕で攻撃をしてくる。その高い攻撃性から冒険者には煙たがられている魔物でもある。
「その辺りの調査はどこの班がしていたんですか?」
「それがだな……」
「話はこのマリアとジェシーさんが聞かせてもらいましたッ!」
リュートさんの話を遮ってテントに入ってきたのは、先ほどの始末書組の2人だった。これはまさか……
「そこの調査ならこのマリアがしましたッ!」
「まじかよ……」
苦労人マリアちゃんが衝撃の真実を口にしてしまった。それに対しキリルは諦観の意味を含む呟きをこぼす。俺も気持ちは同じだ。質問の狙いとして、その班の人に事情を聴いたり案内を頼むはずだったんだが、よりにもよってこの始末書組の班だったとは誰が想像できただろうか。
「むむむ、どうしたんですか皆さん揃いも揃って暗い顔をして――マリアが何でも答えて差し上げますよ」
「なら、これ以上俺のテントで話をすることもないだろう。後はジェシーたちのテントで頼むよ。何分俺も話に出てきた龍の刺青の男を調べなければいけないからな。こう見えても忙しいんだ」
どこからともなく書類を取り出して忙しく仕事をし始めた。俺にはそれが演技の仕事なのか本当の仕事なのかは分からないが、マリアとジェシーの始末書組に関わりたくないことは分かったため大人しくジェシーのテントに行くしかない。
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