第23話 カルダッカ騎士団

「それで事情を教えてくれるね?」


 俺たちは今【カレキ山】の麓にキャンプを設立していた甲冑を着た集団――カルダッカ騎士団の副団長がいるテントにお呼ばれされている。


 【カルダッカ】、【中立国家ブルノイユ】の属国の1つだ。ブルノイユは昔、農業や林業などが盛んな小さな町だったが、海に近く特定の思想に偏っていなかった田舎の町は流通の中心都市として徐々に栄えていった。【カルダッカ】はそんな【中立国家ブルノイユ】の発展を見越して早くから合併した国家で親交の深い国だ。


 結果、その読みは的中。【カルダッカ】は多くの利益を享受したわけだ。


 そんな国の騎士団がなぜここにいるのかは気になるが、どうして俺たちがカルダッカ騎士団のテントにいるのか説明するには龍の刺青の男との戦闘が終わった時点まで遡る。

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 刺青の男に逃げられ、その場で悔しそうにするキリル。こいつを放っておくわけにもいかないので、なんとか会話をしようと話題を振るも素っ気なく返されてしまう。若干の気まずさを感じながらもついにあの話題――


「あの龍の刺青の男と昔に何かあったの?」と尋ねてみるがキリルの返答は「今はまだお前に教えられない」の一点張りで、俺はモヤモヤした気持ちでいっぱいになった。


 そのまま廃村に留まっていたとしてもワイトとの戦闘になりそうなので、騎士団の死体をキリルの魔法で火葬してもらって廃村を後にしようとしたときのことだ。


「えーと、すみませーん。そこの冒険者さん方! お話聞かせてもらえませんかー」


 不意に俺たちを声に一瞬、警戒を強めて振り返る。


「うわっ! そんな怖い顔しないでくださいよ。びっくりするじゃないですかー」


 するとそこには甲冑を着た2人の騎士が、正確には先ほど火葬したはずの2人の騎士が平然とした顔で立っていた。


「「は?」」


 俺たちは2人揃って間抜けな声を上げてしまった。


「ほら、ジェシーさんもお願いしないと、私たちが始末書を書くはめになりますよ」


「……それは困るな。おい! お前ら、いいから黙って僕たちについてくるんだ!」


 新入りのマリアちゃんとめんどくさそうなジェシーくんが生きていたのだ。


「「あ、はい。……って、いやいやいや! おかしいだろ!」」


「よし、騎士団のテントに戻るぞ」


「「人の話を聞け!」」

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 結局、なぜ生きていたのか。どうやって逃げて隠れていたのか。それすら、聞かせてもらえないままテントまで連れてこられてしまったわけだ。


「別に君たちを責めようというわけではない。俺たちは何が起きたのかをあの2人以外の第三者の視点からも説明が欲しいんだ。頼めるかな?」


 キリルは道中も不機嫌だし、騎士団の2人は彼らだけで喋っているしで俺の気は晴れたもんじゃない。今もキリルは副団長のリュートさんから尋ねられているのに全く返事をする気がない様子だ。


 仕方がないのでが対応する。


「分かりました。私たちは【ブルノイユ】に住む少年の依頼ではるばる【カレキ山】までやってきました。その途中で怪しげな集団を目撃したため尾行していくと、貴方たち騎士団の4名と龍の刺青をした男との戦闘に遭遇しました。これに私たち2人が介入し今に至るというわけです」


 久々の私モードでリュートさんにお話もとい事情聴取をされている。


 怪しげな集団扱いしたのが気にくわないのかカルダッカ騎士団第4部隊所属のお坊ちゃんことジェシーくんは眉をひそめる。

 気にしない気にしない。苦労人のマリアちゃんが何とかしてくれるさ。

 頑張ってマリアちゃん。


「それでこちらからも聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


「あぁ、構わないよ」と告げる副団長リュートさん。続けて「外部に依頼を出したジェシーたちは後で始末書の提出な」と無慈悲な宣告を言い渡していた。


 なにやらジェシーとマリアの2人が上司の命令に抗議をしていたが、リュートさんの側近によってテントの外に連れ出されて行った。さらばだ、ジェシー。


「騒がしてしまったね。質問というのは?」


「私たちが受けた依頼についてです」


「おや? 冒険者ともあろうものが依頼内容を口外していいものなのかい?」


「いえ、今回受けたのはギルドを介さない個人的な依頼でして、依頼主の父親の行方を捜しているのです」


「なるほど。訳アリということだね」


「はい。【カレキ山】の調査依頼を受けたまま行方が分からなくなってしまったので、こちらの方に情報が入ってきたいないか尋ねておきたかったんです」


 そこまで聞くとリュートさんは立ちあがり、「少し待ってもらっていてもいいかな? 資料を持ってくる」と言い残し、テントの奥の資料室のような場所に入っていってしまった。


 すると、今部屋には俺とキリルしかいない状況になってしまう。


 さて、どうしたものかと悩んでいるとキリルから俺に話しかけてきた。


「……たな」


「ん?」


 まずい。

 話しかけられるとは予想していなかったから何も聞き取れなかった。


「俺が……その……な」


「ごめん。聞き取れなかったからもう一回言ってもらっていい?」


「だからッ! その……俺がわ……な」


 やばい。本格的に何も聞き取れないパターンだ。


「……」


「あー、くそッ! 勝手に飛び出してすまなかった。俺が悪かった。反省してる」


「ほほぉ? ふーん、まぁ反省してるならいいんじゃない」


 俺にできる精一杯の笑顔を作りそっぽを向いているキリルの肩を優しく叩き、出来の悪い子供を慰める母のような口調で伝える。


「元気出しな。俺は気にしてないからさ」


 するとキリルの様子がおかしくなった。まるで何かを堪えているかのようにプルプルと小刻みに体を震わせている。そうと思ったら俺の方を睨みつけながら口を開き――


「おい、カグラ。その腹立つ顔はなんだ。新しい玩具を見つけて大喜びする犬にでもなったつもりか?」


 ピシッと俺の顔を指さしながら精一杯煽ってくるキリル。


 だが、俺はやめない。


 当然だろう。キリルが下手したてに出てきているのだ。これをからかわないわけがない。それに今までの鬱憤も晴らしたかった俺はたっぷりと皮肉を込めて言ってやった。


「ふーん、愛しの相手に逃げられてしまったかわいそうなキリル君は頭から犬の小便でもかけられて冷静になったほうがいいんじゃないかな?」


「いやー、お待たせ……って何かあったの?」


 あぁ?と凄むキリルに少し機嫌の悪い俺。副団長は絶妙なタイミングで戻ってくるできる男だった。


 そんな彼に俺たちは息ピッタリに「別に」と言うのだった。

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