第21話 廃村
ワイトが生息している地域。
それは昔まで人が住んでいたが今は放棄された村、つまり廃村だ。しかも、段々と霧がたち始め怪しげな雰囲気になっている。
村を囲う壁はところどころ壊れ、村の名前が書かれた看板も薄汚れてまともに字を読み取ることができない。入口のような壊れた門をくぐり俺たちは村の中に入っていく。
すると中は意外にも綺麗で壊れている民家も少ないように見える。ただ……
「くっさ、なんだこの臭い……」
「死臭だな。あそこにも骸骨、あっちにも骸骨、そこらじゅう骸骨だらけだ」
「うぇぇぇ、よく平気でいられるな。俺なんかもう吐きそう……」
キリルの言うようにあちらこちらに骸骨が転がっている。放棄されて随分と経っているはずなのに誰も供養してやらないのだろうか。少なくとも村の生き残りの人たちはこの惨状を知っているはずだ。それなのに来れないということは、はやり病か何かのせいなのだろうか。
そんなことを考えているとキリルがふらっと一番近くの骸骨に近寄っていき、骸骨の目の前でそっと両手を合わせた。
「安らかに眠ってくれ。この世をさまよう迷える魂よ。『
キリルがそう唱えるとキラキラしたものが表れ、それはふわりと浮かびながら上空に消えていってしまった。あれが魂というやつなのだろう。幻想的な光景に思わず息を飲んでいた俺だったがハッと重大なことに気がついた。
「もしかしてだけど、この辺ってまだ幽霊いるの?」
「いるぞ。おかげで随分と空気が淀んでやがる。まぁ、俺の魔法じゃ気休め程度だろうがな」
シッシッと腕を振り払う仕草をしながら答えるキリル。常日頃から魔力感知を使っているとそういった気も見えるようになるのだろうか。ともかくキリルには幽霊がいるかいないか分かるらしい。
なんとも羨ましい限りだ。
俺ももっと魔力をうまく使えるようにならなきゃいけない理由が増えたわけだ。
俺も骸骨に近づいて手を合わせると気休め程度の念仏を唱える。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
「ワイトが発生するのも納得だ――って、それは何してるんだ?」
「これか? そうだな……俺の世界での除霊方法の1つみたいなもんだよ」
そこで俺は立ち上がり膝についている土ぼこりをはたき落とす。
「彼らがちゃんと成仏できますようにってね。それより、ここからどこに行くの?」
「あぁ、カグラには言ってなかったな。目的地はここだ」
「こんな廃村にサーズのお父さんがいるの?」
見渡そうにも霧が濃くなってきてあまり遠くまで見ることができない。注意して耳をすませてみるが、綺麗に残っている民家などからは人の気配はしないし、周囲に隠れているような気もしない。
キリルめ。さては当てを外したな?
「正確に言うといるんじゃなくてここに来るんだ。地図を見ても分かる通りこの村は中腹と麓、そのちょうど中間あたりのいい位置にある」
地図を広げながらキリルは説明を続ける。
「それに奴らは情報を得るために新入り君から話を聞かなきゃならねぇ。落ち合う場所としては目立ちやすいしワイトは基本的に夜行性だ。それほど危険ってわけでもねぇ。陽が落ちる前には姿を見せるんじゃねぇか?」
「なるほど。さすがキリル! それで俺たちは時間まで何をするんだ?」
「村の地形の把握。周辺に魔物がいないかの確認。村を見下ろせる場所の確保。いや、この霧だと無理だな。入ってきそうな場所を二手に分かれて見張るしかないか……まだまだやることはいっぱいあるぞ」
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……あれから4時間くらい経ったのでしょうか。昼食をとった後は、壊れた壁から入れそうな場所を瓦礫で塞いで奴らが入れないようにしたり、それが不自然に見えないように民家も少し壊したりしてと大半が力仕事だった。
キリルが魔法を使えばいいんじゃないかとは俺の言葉だ。そんな俺に対してあいつはなんて言ったと思うか?
「コカトリスの幼体2匹、逃げるための煙幕6回、解毒薬2本」
ぐはっ!
「全部てめぇのおふざけのせいだ。少しは反省して体を動かすよなァ?」
俺ではキリルに勝てなかった。
そのやり取りの後はより一層の頑張りを見せたが、最後のセリフを言った時のキリルの笑顔が恐ろしく冷たくて俺がビビったわけではない。決して俺はあいつにビビったわけでない。
「手が止まっているように見えるのは気のせいか?」
「き、気のせいであります! ボス!」
「それならいいんだが、あの家はもう少し壊した方がいいかもな」
「サー! イエッサー! ボス!」
そう決してだ。
そんなこんなの4時間だったが今は奴らが来るのを待ち伏せしてる。
キリルが見張ってるのは東門――俺たちが入ってきた方の門――で俺が見張ってるのは南門だ。
出入り口はこの2つしかないため無理に入ろうとしない限りは見つけられる寸法だ。
というか霧が濃すぎてろくに前も見えないが、奴らは迷わずにちゃんとここまで来れるのだろうか。
パァン! パァン!
その時だ。乾いた音が2回、霧に包まれた静寂を破るように打ち鳴らされた。
もちろんキリルからの合図だ。音がした回数が人数だから……相手は2人か。俺の方からはまだ来てないな。
キリルは魔力感知で判別できるらしいから、返事の合図として魔力弾を1つ地面に落として俺はしばらく待機だ。
中に入っても出入り口は2つだけ、慌てずに全員が中に入るのを待つ作戦だ。
しかも、出入り口がたくさんある? それなら塞いで2つにすればいいだろうとは無茶苦茶なことを考えたものだ。
「なぁブランドー。本当にこんなところまで新入りごときが来れんのか?」
「やれやれマックス。お前はいい加減、ジェシーのことを信頼したらどうだ? ここは夜にならない限りは絶対に安全だ」
「ブランドーの言う通りだ。迷子になりたくなかったら大人しく僕についてくるんだな」
そのおかげでこんな簡単に事が運ぶならよしとするか。騎士団連中が何も知らずにのこのこと門をくぐったのを見送ったら合図の魔力弾を3つ落とす。
「サーズの笑顔のために頑張るかな」
軍帽を深く被りゴーグルをしながら剣にそっと手をかける俺だった。
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