第20話 中腹突入
颯爽と湿原を駆けて抜けているが、ついに東から太陽が昇り始めた。
仮眠もわずか3時間程度。寝ぼけ眼には厳しいほどに夏の朝日は眩しい。
「予定よりだいぶ早く来れたみたいだな。こっから先は【カレキ山】だ。もう一回、打ち合わせをするぞ」
「【カレキ山】……ね。うわさ通りってわけだ」
先ほどまで多く見かけた青々とした草木は見えなくなり、代わりに茶色く枯れ果てた草や葉をすべて失い寂しく佇む大木など【カレキ山】という名にふさわしい光景が広がっている。
さらに毒沼だろうか。紫色や緑色をしているいかにも怪しい沼まで見えている。
「たしかに気をつけないといけないね」
「解毒薬はアイテムボックスから出して、服のポケットとかのすぐ使えるとこにしまっとけよ。一瞬の遅れが命取りだ」
キリルは革ジャンの裏ポケットを見せながらそう言った。
俺も指示通りに解毒薬を取り出し、胸ポケットに3本をしまっておいた。
そして、お前の仕事だろと言わんばかりに「カグラ、この木を倒してくれ。隠れる場所がない」と指示された。
許してくれ。罪もなき大木よ。悪いのは全部キリルなんだ。
寂しく佇む大木から右足を一歩引き、力を込めて一気に振り抜く。
大木は見事、根元からポッキリ。と、同時に複数のニードルビーが出現した。
不意をつかれたもののすぐさま抜刀し、ニードルビーの突撃に合わせて一振り、二振り。なんなく退治完了だ。
突然のニードルビー出現には驚いたがもっとおそろしいのは、この間にキリルは地図とにらめっこしてるだけだったということだ。
大木よ。共にキリルを恨むとしよう。
もちろん大木の断面はスカスカだったのでこれではニードルビーの住処にされてしまうわけだ。
「さて、これから奴の父親を探さなきゃならねぇわけだが、この山は山頂に近づくにつれて強力な魔物が多数出現する。俺たちでも登るのは一苦労だ」
とっとと地面に座っているキリルは地図をヒラヒラさせながら、これからの予定を立て始めた。俺も切り替えていくとしよう。
「つまり、サーズのお父さんは【カレキ山】の高くまで登ってないってことか?」
「そういうこった。それに麓付近を捜索しても雑魚との戦闘で疲れちまう」
キリルは「奴の親父も同じはずだ」と続け、指をピンと立てた。
「麓から中腹にかけて、それも強い魔物たちの縄張りギリギリの雑魚魔物共が近づけないライン。そこに奴の親父はいる」
キリルがヒラヒラさせている地図を受け取り、指示に従って魔物たちの縄張りを赤ペンで印付けしていく。
山頂部分には情報のない強大な魔物の縄張り。
中腹には死霊系の魔物として有名なワイトに石化の息を吐くコカトリスなどの中型の魔物から、コカトリスを主食にするブラッドパンサーやアシッドサーペントなどの大型の魔物の縄張りを続々と書き込んでいった。
はい。肉体労働終わりです。俺の仕事終わり。
ここからしばらくはインテリヤンキーが頑張ってくれます。
ていうか、キリルと俺のSTRの差が5しかないからあまり変わらない気がするし、ATKでみても70ちょっとしか変わらないから俺だけ――
「わかった。行くぞ」
「早くね!?」
「これだけ情報があれば余裕だろうが、コカトリスの縄張りを抜けてワイトがいる地帯まで行く。道中の戦闘は避けて基本的に隠密行動を心掛ける。いいな?」
「おっけー。隠密行動ってことは俺が先導すればいいか?」
「あぁ、頼む」
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「前方にコカトリス幼体3匹を確認! 左右に親はいない模様! ボス、指示を!」
本物のスパイというものは通信機など使わない。己の優れた声帯を駆使し、大音量で味方に知らせるのだ。
「このカグラの馬鹿野郎がっ! 今ので気づかれただろうがっ!」
どうやら失敗だったようだ。
「チッ、戦闘に移る。お前は真ん中の1体。左右は俺がやる」
「サー! イエッサー!」
周りに障害物は少なく、コカトリスの動きを阻害するものはない。物陰に隠れることもできなく、万が一にも戦闘中に親が戻ってくることは避けないといけない。
つまり、一撃必殺!
剣は抜かず、このまま速度を上げて真ん中のコカトリス目掛けて突っ込む。
それと同時にキリルが左右のコカトリスたちに向けて炎の槍を2本飛ばしていた。
炎の槍が命中したのを確認した後に姿勢を低くしてさらに速度を上げる。
コカトリスの目の前まで来たが、剣はまだ抜かない。
コカトリスのくちばしによる攻撃を躱し、腹の下に潜り込む。そして、居合切りの要領で剣を抜き放ち、腹を掻っ捌く。
予定だったが剣先から謎の衝撃波が発生し、コカトリスは綺麗に真っ二つになってしまった。
「お、おおおおお! これはいわゆる飛ぶ斬撃というやつでは!? 俺もついに夢の世界の住人になるときが来たか!」
喜びを噛みしめながら走る速度を落とし、キリルの到着を待つ。
さて、飛ぶ斬撃ができたからといって俺にその自覚はないんだがな……MPも使った感覚はなかったし、今のはいったい……
「斬撃強化の魔法もお前にかけたら強力な補助魔法になるもんだな」
「クソがッ! お前のせいかあああああ!」
俺が叫んだと同時に後ろから「キエッエエー」というけたたましい鳴き声も聞こえてきた。
コカトリスの親に見つかってしまったので、キリルに煙幕を撒いてもらいながらヒィヒィ言いながらなんとか逃亡に成功。キリルにこっぴどく叱られてしまったことで委縮した俺は、淡々とルートを進みワイトがいる地帯まで辿り着いたのだった。
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