第17話 強さ
「おらぁ! そっちいったぞクソガキ!」
「分かった!」
俺たちは昨日に引き続き早朝から【ブルノイユ西の草原】で大量発生してるニードルビーを退治している。昨日と違う点を挙げるならこないだの盗人少年サーズが一緒にいることだろう。
「ここだ!」
キリルが追い込んだニードルビーをサーズが見事に短剣で仕留める。
「カグラさん、見ててくれましたか!」
「ちゃんと見てたよー。だけど……」
言いながらサーズに近づいてマントで彼を庇う。それと同時に彼の背後に迫るニードルビーを短剣で斬りつけた。
「周りにも気を付けないとね」
「あ、ありがとうございます」
「おらっ! サーズ! 蜂野郎はまだまだ湧いてくんだぞ。もっと気張れっ!」
「分かってるって、もううるさいなぁ」
サーズはキリルについていき草原を駆けて行った。そんな背中を見送る俺はさっきまで腰掛けてた石の上に戻り弓の調整をする。
昨日の夜、キリルとこれからの予定を話し合ってると俺の人助けの方法は間違っていると言われた。
あれでは施しと変わらないと。
この世界は弱肉強食だ。弱いやつは死ぬ。そんな弱いやつを一時的に救うための施しなんて意味がないと。
俺自身あれが最善だと思っていたが違ったみたいだ。どうせ助けるなら最後まで付き合ってやれとキリルは言った。どうやらあいつも相当なお人好しのようだ。
そういうわけでサーズを連れ出して冒険者にするために訓練してるというわけだ。
しかし、金髪ヤンキー改め、お人好しヤンキーが俺以上にやる気を出したおかげで俺は暇になってしまったし、ちょうどいいから弓の練習でもしようかと思ったのだ。
漫画で見た弓道の構え方で木を狙って撃ってみるが右に逸れてしまう。それに弓も真っすぐじゃなくて真ん中が凹んでいて撃ちにくい。あれこれ試しているうちにこの凹みに合わせるといい感じに飛ぶ気がしてきた程度でまだまだ実戦では使えないだろう。
「カグラさぁぁぁぁん、助けてくださぁぁぁぁい!」
「このクソガキがっ! 逃げるな!」
泣きながら逃げるサーズに鬼の形相で追いかけるキリル。やれやれ結局こうなったか。ってことは次は私の番かな。
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「カグラさんありがとうございました!」
「いーえ、これだけ出来れば冒険者でやっていけると私は思うな。ね! キリル!」
「まだまだ半人前ってところだろうがな」
「上出来だってさ」
「誰がそんなこと言った!?」不器用なキリルの言葉を補ってやったんだ。感謝してほしいものだ。事実サーズは盗人をやってただけあって身のこなしや危機察知能力が高く、ニードルビー――PT討伐推奨平均Lv5――程度は早々に倒せるようになっていた。
「そろそろお昼ごはんにしよっか」
では、こんな時間まで何をしていたかという話になるのだが……
「それでサーズはオオイヌを倒せるようになったのか?」
「あのさ。オオイヌはEランク冒険者相当だからね。サーズにはまだ早いでしょうが! 段階を踏んで今日中に倒すのを目標にしようって決めたじゃんか!」
サーズの1vs1でのオオイヌ討伐を目標に練習してるのだ。やつらの強みはチームワークの良さであり1vs1なら動きは単調だ。これで倒せないようなら冒険者になってもすぐに死んでしまうから、そこまでは付き合ってやろうという話になっていた。
ちょっときついかもと思ったがキリルがこれ以上は譲らなかったので仕方ないね。
私の横で天を仰ぎ涙するサーズが見えるが気のせいだろう。
その後もこれからのメニューについてあーだこーだと話しながら食事は和気あいあいと進んでいった……
「あのー、お2人はどうしてそんなに強いんですか? カグラさんは女性なのにすごい身のこなしだし、キリルは魔法がすごいし何か強さの秘訣はあるんですか?」
強さか。
私の中の最強はどうしても姉のような人になるんだろうな。
強くて綺麗で凛々しくてどんなに辛くても私の前では花のような笑顔で振る舞う姉。
……あぁーだからこっちだと女なのか。
「私は憧れの人に近づこうと頑張ってるからかな。キリルは?」
「俺は……いや、俺もカグラと似たようなもんだな」
「なるほど、憧れた人の強さを目指すということですね。ありがとうございます」
姉か、私もあの人みたいになれるのかな……勇者。そうだ今の私は勇者なんだ。
逃げちゃいけない。
挫けちゃいけない。
諦めちゃいけない。
今度はちゃんと助けないと。
「休憩は終わりだ! 行くぞサーズ!」
「えぇぇぇぇ! またキリル!?」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ! あと俺のこともキリルさんと呼べ! このクソガキがっ! あとカグラも来やがれ!」
そっか今はキリルもいるんだったな。昔みたいにはならないよな。
「今行くよ!」
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