第16話 初めての仲間

 【ブルノイユ】の冒険者ギルド本部。その片隅に普段は見かけない奇妙な組み合わせの2人が座っている。1人は金髪のチャラそうな男。もう1人は黒い帽子を目深に被った黒髪の女。そう私、カグラだ。


 ニードルビーの殲滅は金髪ヤンキーのすんごい炎の魔法のおかげで早々に片が付き、私たちはギルドへと戻っていた。


 買った冷水が乾いた喉を潤してくれる。


 ヤンキーは椅子に深く腰掛け片手をひらひらさせながら聞いてきた。


「それで? パーティー組むの? 組まないの?」


「組む」


「じゃあ、決まりだな。んで、お前は魔力が全然ないんだったな」


 くー。このヤンキーめ。痛いところを突いてきたな。


「まぁ……うん。ヒール2回分くらいしか」


「あ? ヒール? てめぇ僧侶か? いや、それにしちゃさっきの動きはおかしいな。商人か? あー、分かんねぇな。とりあえずステータス見せろ。俺のはこれだ」


 うわぁ、光の精霊がんばってるなー。こいつ全部見せる気だよ。危機管理ガバガバでは?

 でも、これからパーティー組もうってことだからいいのか。私も全部見せちゃお。


「ステータス、オープン」

_______________

キリル・ストラム

18歳 男性

種族:ヒューマン

職業:勇者

出身:ブルノイユ西端の村

称号:Dランク冒険者

≪通常パラメータ≫

Lv :26

HP :83

MP :131

ATK:200

DEF:121

M A:333

M P:208

SPE:195

DEX:52

≪基本パラメータ≫

STR:13

VIT:14

INT:18

MND:16

AGI:15

DEX:6

_______________

_______________

カグラ・アステライト

18歳 女性

種族:ヒューマン

職業:勇者

出身:地球

称号:異世界からの旅人

≪通常パラメータ≫

Lv :27(2↑)

HP :486(36↑)

MP :23 (2↑)

ATK:276(23↑)

DEF:274(19↑)

M A:48 (4↑)

M P:48 (4↑)

SPE:279(19↑)

DEX:272(19↑)

≪基本パラメータ≫

STR:18

VIT:18

INT:5

MND:5

AGI:18

DEX:18

_______________


 なんだかんだ言って、人のステータスを全部見るのは2人目か。

 アレクたちも「ステータスは冒険者の命だからいくらカグラでもみせらんねぇな」って言ってたし、っと。出てきた出てきた。


 どれどれ、金髪ヤンキーの名前はキリルね。18歳! 同い年だ。


 ……って。んんん?


「「はああああ!? 勇者!?」」


「おかしいだろ! なんで魔力が全くない勇者がいるんだよ!」


「いやいや、基本パラメータ見てよ! これでも勇者になって増えたんだから!」


「あぁ? 基本パラメータなんか見る価値な……はああああ!?」


 キリルの叫びがギルド中に響き、冒険者たちの視線を集めてしまった。見慣れないガキが2人で騒いでいる様子は彼らにとってひどく疎ましいものなんだろう。


 キリルもそれに気づいたのか声のトーンを下げた。


「おい、なんだこの出鱈目なパラメータは頭おかしいのか?」


「えへへ……それほどでも」


「ほめてねぇよ! この馬鹿が!」


 やれやれ、短気なヤンキーは困るぜ。改めてキリルのステータスを見るが疑問点が多い。


「HP低くね?」


「てめぇが高すぎるんだよ。大体、これで増えたとか元の魔力はいくつだ?」


「えーと……それはちょっと……言えないかなぁ」


「いくつだ?」


 キリルさん近いっす。イヤー! そんな怖い眼で睨まないでー!


「……ゼロ」


「俺の聞き間違いか? なぁ? もう一回言ってくれ」


 くっそが、絶対聞こえてるだろうこいつ。腹立たしい。


「どうせ俺は魔力ゼロの女の子ですよ!」


「ははは、こいつは面白れぇ冗談だな。女がだって? 最初は男装してるから男かと思ったが何か事情でもあるのか? えぇ?」


 ……ハッ! 私としたことがまた間違えるなんて。


 しかし、パーティーメンバーに隠したままでいいのか? うーん、悩ましい。


「いやーこれには海よりも深い悲しき事情があってだな」


「ほぉ、面白そうだな。俺にも聞かせてくれよ」


 キリルはテーブルに身を乗り出して聞く気満々だ。


 ぐぬぬ……仕方あるまい。


「キリルも称号は見ただろ?」


「あぁ? 異世界から来たのがなんか関係あるのか?」


「実は俺が異世界にいたときは男でこっちに来た時に、なぜか女の体になってしまったんだ」


 キリルが首を傾げる。頭の上にクエスチョンマークが見えるのは気のせいではないはずだ。


「女の体だけど中身が男ってこと」


 キリルは納得がいったのかポンっと手を打った。


「ええええええええ!」


 そして、また叫んだ。今度はあちこちから舌打ちが聞こえてきそうなほど皆さんの目つきが怖い。


 キリルは一段と声のトーンを下げて続ける。


「女の体だけど中身が男ってことは、好きなのは女?」


「別に? 普通かな」


「男が好き?」


「それはないなー。普通かな」


「どっちだよ!」


 やれやれ、馬鹿なヤンキーは困るぜ。


「そういう奴もいるんだなでいいんだよ。あと、扱いは男と一緒でいいぞ。そっちの方がやっぱり楽なんだよね」


「着替えは?」


「一緒でいいよ」


「部屋は?」


「一緒でいい」


「風呂は?」


「別」


「なんてめんどくさい野郎だ……」


 いくら中身が男だからと言って風呂を一緒はNGだ。これはなんかこう風紀的に?


 キリルが疲れるのは無理もないな。


「で、俺とパーティー組めるの?」


 今度はが聞く側になってしまった。かなり不安があるが騙してパーティーを組んで、後でごめんなさいされるくらいなら全部言った方がよかったよな。キリルは右手でこめかみを抑え、天を仰いでいる。


「馬鹿な男だ、大馬鹿野郎だと思っていたら、ぶっ飛んだパラメータでそれで実は女でしたー。かと思ったら中身は男だから気にするなってか?」


「そういうことだね」


「ははは……はっはっは、そうだよな。世の中、そういう奴がいてもおかしくないよな。いいぜ決まりだ。これから俺たちはパーティーだ。頑張っていこうぜ」


「よろしく、キリル」


「あぁ、カグラよろしくな」

 _____

 ___

 _


 宿はちょうど引き払っていたので今日からキリルと同じ宿に泊まることにした。

 その道中――。


「キリルはなんで冒険者になったの?」


「あぁ? そういうカグラはどうなんだよ」


「俺? 俺はみんなを笑顔にしたいんだ。そのためにも困っている人は助けたいし、泣いている人がいたら慰めてあげたいから、どこへでも行ける冒険者になったんだよ」


「そりゃ大層なことで」


 頭の後ろで手を組みながらキリルは歩く。


「やりたいことがあってさ。カグラみたいな優しいことじゃないけど、世の中のためにやらなきゃいけないことがあるんだ。だからさ、そんときまで仲良くいこうぜ」


 俺はそう語るキリルの背中に何か重い使命みたいなものを感じた。

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