第15話 大馬鹿野郎

 私を馬鹿呼ばわりしたヤンキーが去った後、私も屋根から降りて今日の宿を探すために大通りを歩いていた。途中、先ほどの貴族っぽい男がスキップをしながら歩いていたので、ヤンキーはちゃんとネックレスを返したのだろう。


「いらっしゃい、いらっしゃい! うちは他の宿よりちょっぴり高いけど、風呂と飯に力を入れてるよ! 安宿の不味い飯にこりごりな冒険者さんや、熱いお湯が張られた風呂に浸かって疲れをとりたいそこの旅人さん! どうぞうちの宿にいらしてください!」


 あまりに魅力的なうたい文句に釣られた私はその宿に泊まった。値段はちょっぴりどころではなかったが、美味しい料理と熱い湯は長旅の疲れを存分に癒してくれた。


 ――翌日。

 いい宿だった。しかし、高い。私は渋々その宿を引き払い、冒険者ギルドに向かった。街の喧騒は昨日よりも増していた。なんでも明後日には秋の収穫を祈る祭りを行うそうだ。そういうのは穫れたときにやるものではないかとも思ったが、収穫を祝う祭りもやるそうだ。祭り好きな市民性はいいことだ。私も祭りは大好きだから、是非、明後日の祭りには参加したいものだ。


 喧騒をかき分けてもうすぐでギルドに着く頃だ。昨日の金髪ヤンキーを見かけた。どこに行くのかと少しばかり見ていると、なんと奴は冒険者ギルドに入って行ったのだ。そのまま私もヤンキーについていくと、奴は真っ先に受付嬢の所に向かって依頼の話をしているようだった。ギルドに置かれた適当なテーブルに座りながら、奴の動きを見ていたが奴も私と同じソロの冒険者のようだ。それにこの街に来たのも最近のようで、あちこちのテーブルを回って情報を集めていた。

 私はこれをチャンスだと思った。


 それというのも冒険者がパーティーを組むのは4人までと冒険ギルドの規定に定められている。報酬は4等分されてしまうが、ソロに比べても安全性は高くなるだろう。特に私は足が速く硬い魔物に出会ったら、対処が非常にめんどくさい。攻撃魔法を使える仲間が1人でもいればそれも変わってくるというわけだ。


 決心した私はヤンキーに話しかけた。


「やぁ、昨日ぶりだね。もしかして君もソロ?」


 なるべく気さくにそれでいて馴れ馴れしくないように……


「あぁ? 昨日の馬鹿じゃねぇか。馴れ馴れしく話しかけるんじゃねぇ」


「……ごめん。何せ田舎者でさ、パーティーを組める人を探してるんだよ」


「は? 俺は何も言ってねぇだろうが、勝手な推測で決めつけるなよ」


「どうかな。一緒に組んでくれたりはしない?」


「――断る。馬鹿とは組まねぇって決めてるんだ。他を当たりな」


 ……撃沈であった。仕方なく受付嬢に1人で話をしに行こうとしたら、他の冒険者に声を掛けられた。


「そこのガキ、ソロなんだってな。パーティーの1人が怪我で来れなくて、困ってるんだよ」


「組みま……」


 これはキタ! なんてチャンスだ! 先ほどまでの曇った表情からは一転。目を輝かせて飛びついた。


「魔力を使えれば組んでやるがどうする?」


「――せん! ごめんなさい! ……私、魔力が全然ないんです」


「チッ……っと、それはわりぃことしたな。頑張れよ」


 冒険者が一瞬、舌打ちした気がするが気にしない。当初の目的通り、受付嬢に紹介された依頼を受けてギルドを後にした。


「魔力がない……ね」


 ヤンキーがそう呟いていたのを私は聞き逃さなかった。

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 教会で転移の指輪の登録を更新し、準備は万端。街を後にした。


 依頼は【ブルノイユ西の草原】に大量発生してる蜂の魔物、ニードルビーの討伐。この依頼は緊急性が高いことから、多くの冒険者が参加するほどに追加報酬がよかった。私は次々と蜂を四散させながら、考え事をしていた。


 あのヤンキーが悪い人には見えなかったんだよな。

 あの後に話しかけてきた冒険者の方がよっぽど悪そうだった。

 私をガキと見て舐めてかかってたしな。

 今になって思えば、断って正解だったかもな。

 まぁ、パーティーに魔力を使えないやつなんか入れてくれないよな。


 一人、両手に短剣を持って獅子奮迅の勢いで蜂を狩りながら、私はまだ考え事をする。


 それより、ヤンキーに魔力がないことがバレてしまった。

 これは由々しき事態だ。

 たしかに少しはあるが、それだけだ。

 魔法の練習は続けているがヒールも2回がやっと。

 表示されてるMP的には10回くらいは余裕のはずなんだけど。

 ……もし私が攻撃魔法でも使えれば、こういう敵も炎の魔法でパーッと倒せるのになぁ。


 その時だ。私の周りを炎が埋め尽くした。

 炎が消えると周囲にいた蜂はパーッと倒されていた。そして、そのを放ったと思われる人物は気さくに話しかけてきた。


「はっはっはっはっは! 馬鹿野郎だと思っていたが、違ったみたいだな! まさか大馬鹿野郎だったとはな! 悪くねぇ。俺と組まねぇか?」


 そこにはさっき私からのパーティー申請を蹴った金髪ヤンキーがいた。

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