閑話 複雑な恋の行方

 カグラは道を進んで行き、段々とその姿が小さくなっていく。

 その姿が完全に見えなくなるまで、彼らはその場で彼女のことを見送り続けた。


「行っちゃったっすね……」


「そうね」


「寂しくなっちゃいます」


 エイトに続き他の者たちも、旅立った彼女ともう会えないような口ぶりで呟いた。

 しかし……


「なんだお前ら悲しそうにしやがって、俺らはS級冒険者になるんだろう? なら、どっかでカグラとまた会えるさ。だから、これからはもっと頑張ってさ、もう一度会った時に驚かしてやらないと面白くないだろ」


 彼一人は違った。会える。そのことに確信めいたものを持って言い聞かせるようにした。彼らもアイルの言葉を聞いて悲しそうな顔から一転。新しい玩具を見つけた子供のような笑顔を浮かべた。



「ふーん。驚かすだけでいいんだ。アイルは」


「ヘタレっすね」


「せっかく、みんなで手伝ったのに台無しにしちゃうなんてヘタレです」


「そ、そんなんじゃねぇよ。あいつはライバルみたいなもんだ。俺はそんな目で見てない。まぁ、いつまでライバル面を出来るかも分からないけどな」




「「「黙れ、ヘタレ」」」


 現実は甘くないのだ。アイルがいいことを言った風に構えていたが、長い付き合いのパーティー仲間には意味がない。

 天を仰ぎ涙する男アイル。彼の心中を正しく察せられるものはいるのだろうか?




 【スライムの森】でカグラに助けられた。彼女は恩に着せるどころか、共に楽しく1週間を過ごした。それは短いようで今までの人生の中で1番長い期間のように思えた。

 エイトやカナン、シャロンはそれぞれ考え、カグラに対して、キッチリと恩を返していた。それなのにその間、自分はカグラに何もできていなかった。やっていた事といえば一緒に飯を食っただけ。不甲斐なさを感じ相談したところ、ああいう形になったのだ。


 つまり、エイトの意思とは無関係に事が進んでしまったのだった。


 彼はシャロン一筋。未だに敬語を使われてるところを見るにヘタレという言葉はあながち間違ってもいないだろう。

 しかし、カグラとは妙に馬が合う。話は弾むわ、軽口を叩きあうわ。そんな彼らを見た3人がどう感じるかは必至。結果、アイルの恋路を邪魔することになった。


 だが、多少のトキメキがあったことも事実。カグラの見せる無邪気な笑顔にアイルの心は揺れているのだった。特に最後の言葉はカグラが見えなくなった今でも、彼の脳裏を離れない。


 それでもアイルは思う。カグラとはライバルでいたいと……彼の頬を涙が伝う。




「ほら! 元気出す! 私もカグラに会いたいんだから気合い入れるわよ」


「仕方ないっすね。シャロン、アイルに一発言ってやってほしいっす」


「え!? えーと、一緒に頑張りましょう! アイルさん!」


「!!! ありがとう……お前ら…………よし! そうと決まれば早速、依頼を受けに行こう!」


 3人が彼の涙をどう受け取ったかは彼らのみが知る。それでも彼ら4人の目的は同じ、そのことを再確認し、彼らはより一層の努力を重ねることになるだろう。




「昨日から一睡もしてないのよ? 今日は休養にするべきよ」


「いいや、今ならDランクの依頼も簡単にこなせてしまう気がするんだ!」




 ……夢への道のりはまだまだ遠いようだ。

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