第13話 2度目の旅立ち
ついに町を旅立つ日になった。朝食を食べていても、アイルたちが帰ってくる気配はない。寂しさを紛らわすために朝食を胃袋に収め、足早に冒険者ギルドに向かい、この数日ですっかり顔なじみになった受付嬢にオウルさんを呼んでもらった。
「よぉ。よく来たな。まだアイルたちは帰って来てねぇが、お前の服を先に受け取りに行くぞ。新しい服を着て驚かせてやれよ」
「それもいいですね。行きましょうか」
「あら、べっぴんさんじゃない。男物の服って聞いてたから、てっきり男の子かと思っちゃったじゃない。あーもーこんなに可愛い子ならもっと可愛い服を……」
「――それはやめてください!」
仕立て屋のおばさんは男が来ると思っていたようで気分が落ち込んでいたらしいのだが、来たのが私ということでテンションが上がりまくっているように見える。
この人も鍛冶屋の店主と同様にかなり危ない人だ。こういうクリエイティブな人たちは変態しかいないのだろうか?
「それで、私がいただける服はどこにあるんですか?」
「もう、せっかちなんだから、もう少しおばさんとお話ししましょうよ。ね? まだまだ時間もあるんだから。ほら、こんな感じの服とかはどうかしら? こっちもいいかしら? もっとこっち来て。ほらほら」
「ギルマス、ヘルプミー!」
「俺は外にいるかなー。準備出来たら教えてくれな」
おのれ、オウルさんめ。ここの仕立て屋がこういう人だって分かりながら依頼したな。絶対そうに決まってる。ただ、出てくる服は可愛いことに目を瞑ればどれも出来のいい品に見える。
その後、見事に私はのせられてファッションショーが始まった。
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「カグラ、戻ったぞォ! って、え……?」
アイルがその声と共に仕立て屋の部屋の扉を開け放った。
「――ちょ、おま、開けるな!」
そこにはいつもは雑な短い黒髪を綺麗に整えられ、黒を基調とし紺のアクセント。ゴスロリ調の装飾が施され、フリルやレースが付いたドレスに身を包み、頭には紫色のコサージュを付けた私と隣でニヤニヤしてる仕立て屋のおばさんがいた。
「ちょっと、アイル退きなさいよ! 可愛いカグラが見えないじゃない!」
「そうっす! 俺も見たいんすよ!」
「私も可愛いカグラさんを見たいです!」
三者三様に扉を開けてから動かないアイルを退けて、仕立て屋の狭い部屋の中に流れ込んできた。その後ろからはオウルさんが「なんだ、えらく弄ばれたものだな」などとこぼしながら続いてきた。
「なんで入ってくるんだよ! あー最悪だ。こんな格好を見られ……て…………おい! みんなボロボロでどうしたんだよ! 朝になっても帰ってこないし、何も言わないで行っちゃうし……もう……俺、心配で……」
私は涙目になりながら、そう言って、彼らの傷の具合などを見るために近づこうとしたのだが……
「「「「「「俺?」」」」」」
部屋にいた私以外全員からのその一言に私はその途中で凍りついた。あれ? 私、今なんて言……ああああああああああ……まずいまずいまずいまずい! なんて言い訳しよう……あー冷汗が! 冷汗が止まらない!
私は必死に考え、言い訳をした。その結果……
「カグラは男兄弟3人の中に生まれて、母親は早くに亡くなってしまって、父親に育てられたせいで、異世界にいた時の一人称が『俺』でつい、出てしまったと?」
「そう! そう! カナン流石!」
こんなことになってしまった。ほとんど嘘で真実なんか「異世界にいた時の一人称が『俺』」しかない。それでも、昔は男という真実よりかはマシだろう。これからはより一層気を付けなければならない。いっそのこと「僕」にするという手段もあるが保留にしておこう。
「それより、みんなは1日半もどこに行ってたのさ」
私がそういうと、カナンとエイトがアイルをつついて急かし始めた。私は不思議に思いながら、待っていた。
「あー、えーと、実はな。俺だけカグラに何もしてあげられてないなと思ってな。こいつらの助けや鍛冶屋の店主に頼んでこれを作ってもらったんだ」
そういって、アイルが差し出した掌の上には1個の三日月を模したイヤリングで金色の縁で形作られて、中に水色の液体が揺れていた。
「これは?」
「それは、オオイヌの大きな牙とスライムのゼラチン、魅惑蝶のハネを使って、店主に作ってもらったんだ。なかなか綺麗だろ? カグラにやるよ」
アイルは「大きな街に行けばもっといいのが、あるかもしれないけど、そういうのも味があって……」などと保険を掛けたりしている。それが妙におかしくて、つい私は笑ってしまった。
「ありがとうね。アイル。大事にするよ。あと、エイトもカナンもシャロンもたくさーーーーんありがとう!」
その後はようやく解放してくれたおばさんから報酬の服と先ほどまで着ていたドレスまで貰った。おばさんが言うには「べっぴんさんが使ってくれた方が服も嬉しいのよ。だから、これはおばさんからのおまけよ」とのことだ。しかし、おばさんには悪いが私はとっととドレスを脱ぎ、新しく貰った服に着替えることにした。
新しい服は一式身に着けると軍服に近いものだった。この世界に軍なんて概念があるかは分からないが、それを動きやすく冒険者用に作り直したように思える。
布地は白く、ところどころにあるラインや装飾は金色だ。上着は詰襟でボタンが左右どちらにもある。片方はもちろん飾りだ。ブーツは黒で膝下くらいまであるため、ズボンはブーツにインだ。そしてジャケットベルトを締め、剣帯に店主が作った剣を差した。最後にアイルから貰ったイヤリングを右耳に着けた。他にも軍帽みたいな黒い帽子とゴーグル、真っ黒なマントも貰った。
着てみると暑いかと思ったが、大丈夫そうだった。なにか特殊な加工がされているのだろう。おそらくはシャロンの法衣と同じ工夫だ。
そして、店を出て首都【ブルノイユ】へ続く道までみんなで進んだ。
「じゃあ、行ってくるね。またね」
今度は見送られながら、私は二度目の旅立ちをした。
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