第12話 初めての魔法

 あの日から3日経った夜、宿の部屋に私はいる。

 明日の朝には服を受け取って出ていくのだが、昨日の夕食からアイルたちの姿が見えない。彼らは依頼に行くときはいつも朝早く行っていたので、不安になって昨日の段階でギルドマスターであるオウルさんに話をしに行ったのだが……


「あぁ? アイルたちがどこ行ったか知らないかだって? あいつらは今遠くまで出てるぞ。……そう寂しそうな顔をするな。お前の出立までには絶対に帰るって言伝を預かってるから、今日はもう大人しく寝とけ」


 と言われた。

 そして、今日の夜まで丸1日帰ってきていない。不安から私は鍛冶屋の店主のところも訪れた。


「エイトたちが心配だ? はっはっは! それなら心配いらねぇよ。ちゃんと戻ってくるって言ってたからな。なんてったってあいつらはお嬢ちゃ……っと何でもねぇよ。それより、俺が打ってやった剣は使ってるか? あれはお嬢ちゃんの乱暴な使い方にも耐えられるようにするのと切れ味の両立が難しくてな。なによりもお嬢ちゃんのパワーだと……」


 店主の悪い癖が出始めたので絡まれる前にそそくさと撤退した。その後も冒険者や助けた農家のオヤジに話を聞いても皆して「安心して待ってな」という始末だ。

 仕方なく宿屋に戻り、1人で夕食をとって部屋にいるのだが、不安を拭いきれたわけではない。店主から受け取った真新しい鉄製の剣を眺めながら、アイルたちとの日々を振り返る。


 【スライムの森】でスライムキングを足止めするために共闘したこと。

 毎日一緒にご飯を食べたこと。

 エイトやカナン、シャロンに色々と教えてもらったこと。

 結局、カナン、シャロンと一緒に風呂に入ったこと。

 覗いていたアイルとエイトを3人でお仕置きしたこと。

 カナンとシャロンに教えられて魔法を練習したこと。

 私は剣を置き、手のひらに魔力弾――アイルが見せたオレンジの玉と同じもの――を浮かべ、魔力を扱えるようになった日を振り返る。

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 それはつい昨日の朝頃の話だ。私たち3人は町の近くの平原にいた。


「むむむ……」


 私は全身の力を振り絞って、アイルが見せびらかしてきた魔法の基礎中の基礎である魔力弾を作ろうと手に力を込めていた。しばらくすると、BB弾くらいの大きさの魔力弾が発生した。


「おお!」


喜びのあまり私は声を上げてしまう。その際に集中が切れてしまい、途中まで出来かかっていた魔力弾が霧散してしまった。


「うぅ……惜しかった気がするんだけどなぁ」


「大事なのはそこからよ。しっかりと安定させて、手を離しても球体を維持できるようにしないと」


 自身の周りに3つの魔力弾を漂わせるカナンが事も無げに魔力弾をもう1つ作りながら、そんなことを言った。


「またそうやって簡単そうに新しいの作る! ここまでも大変だったんだよ。やっと昨日、これが魔力かなーってやつを掴めたんだから! どうせなら、なんかコツとかないの?」


「コツ? 強いて言うなら、自分の中での魔力のイメージを固めることでしょうね。今のカグラのイメージは私たちのイメージに引っ張られてるから、不安定なのよ」


「自分の中での魔力のイメージ?」


「そうよ。とは言っても前に話したやつよ。私なら『魔力は血液と似たようなもので、全身を巡ってて、それをこうギュッと力を込めて1ヶ所に集めて、そーっと流す感じ』とかそんなやつ」


「私のイメージなら『魔力は体外を覆う薄い膜で、体の中心から放出されてて、それを集中して1ヶ所に集めて、優しく放つ感じ』ですね」


 シャロンは極小の魔力弾を無数に浮かべながら、空中に魔力の線で図を書いて説明してくれた。


「それって、どんなイメージでもいいの? たとえば、普段は体の奥底に眠ってるが、力を入れて練り上げることで使えるようになる! みたいな」


 私は眼を輝かせながら、漫画でよく見かけた設定を口にしてみた。しかし、2人の反応はあまりよろしくないように見えた。


「カグラさん。それはあまりよくないと思います。咄嗟の時に反応が遅れちゃいます。魔法は魔力でしか防げないので、いくらカグラさんの身体能力でも魔法への対策はしっかりしないと、苦労しちゃいます」


「えーじゃあ、空気中の魔力を取り込んで……って、これもワンテンポ遅れちゃうか」


「空気中の魔力? カグラなんか勘違いしてない? 魔力は体内にしかないわよ。それに、動物たちの中でも魔力を有してるものが魔物と呼ばれているのよ」


「…………へ? まじ?」


「「まじまじ」」


「…………まじか。ずっと勘違いしてたよ」


 その後、「――でも」と言葉を続けて……「それなら、さっきのイメージでいけるよ」と2人に笑いかけた。


 目を閉じて集中する。そしてイメージを固めていく……

 魔力は体内にしかない、オレンジの玉、カナンとシャロンの『1ヶ所に集める』、カナンの『全身を巡る』、シャロンの『体の中心』、『魔法は魔力でしか防げない』。

 それらを私なりに解釈して、漫画に当てはめると……1番近いのは魔力というよりは「気」や「オーラ」といったものの方が近い気がする。それから私は先ほどのイメージ通りにするようにしてみた。

 ……体の奥底に水のようなものを感じる。焦るな、落ち着け。精神統一……精神統一……ゆっくりと水が大きくなるのをイメージして…………よしッ! そして、体全体にそーっと流す。全身に巡ったのを感じ取って、それを一気に膨れ上げさせる!!!


 そこで、私は目を開けると自分の全身が魔力に覆われているのを目で確認することが出来た。しかし、それも束の間。すぐに魔力の放出は終わってしまった。


「あれ? 完璧だと思ったんだけどな」


「ははははは! ひぃー、ひぃー……あーカグラはやっぱ面白いわね」


「うっ……ふふ……あっ! これは……その……カグラさんがあまりにも面白くて」


 集中してた私はようやく周りの音が聞こえると思ったら、笑い声が草原に響いていた。もう一度、魔力を練ろうとしてもビクともしなかったので、怪訝そうに彼女たちを見つめると……


「なんで魔力少ないのに、そんな出し方するの! 今は魔力切れ状態よ。ひぃー」


「ふっ……ふふ……でも、それだけ上手く魔力を扱えてるなら、そのイメージでいいと思いますよ。ただ、その使い方はちょっと……」


「2人して笑って、恥ずかしいじゃん!」


「ふぅ……とりあえず、昼食ね。私もシャロンの言う通り、そのイメージでいいと思うわ」


 そうして、休憩を挟んだ後に回復した魔力で色々と練習したおかげで魔力弾の操作と初級回復魔法の「ヒール」を覚えることに成功したのだった。

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「考えてみたら、私なんかよりも立派な4人だから大丈夫か」


 私は彼らの帰りを信じて眠りについた。

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