第10話 修羅の2日間―その3
「やっ! せい! とうっ!」
私の槍による華麗な3段突き。シルバーエイプにはかすりもしない。
ならばと両足を地面につけ、先ほどよりも速く突きを繰り出すも、全力のシルバーエイプには当たらない。
クソッ、やはり手数では押し切れない。もっと緻密に作戦を立てて誘い込むしかないか? それともあの光が収まるまで耐久か?
銀ゴリラの右拳が襲い掛かってくる。間一髪、バックステップが間に合うが、追撃が来る。
無理無理無理。そんな作戦考える時間ないし、耐えらんない。盾に持ち替える? 斧で一発逆転?
却下!!!
とりあえず、距離をとり体勢をおおおおお! って、危ねぇ……
銀ゴリラの剛腕が空を切り、私の頬を掠める。その腕を槍で叩き上げ、怯んでる間に足を刺す。これも効いていない様に見えるがやらないよりかはマシだろう。剣を抜くか? それとも槍で地道に削っていくか?
チッ……八方塞がりだ。せめてもの救いは徐々に銀ゴリラの動きに慣れてきたこととエイプたちが手を出してこないことだろう。
何とかあいつの強化を解除できれば勝ち目もある。
しかし、どうやって?
体毛、白から銀、月の光、吸収、発光……何か。何かないか!
ええい! とりあえず、時間を稼がねばならんから、こうだ!
私は再度、地面をぶん殴って土煙を上げると同時に砂を掴んで、銀ゴリラの眼に投げつけた。すると、思った以上に銀ゴリラはそれを嫌がって、大きく距離をとった。
よく分からんが、有効な手段を見つけることが出来たのは
槍を仕舞い、片手で扱える短剣を取り出し、空いた左手は砂を握る。これでしばらくは戦えるだろう。
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何度、死にかけた? まだ動けるか?
私は夜がこんなに長くて憂鬱なものと感じたのは初めてだ。私が砂を使い始めた頃から、エイプたちも横槍を入れ始め、戦場は混沌としてきた。それなのにシルバーエイプは仲間もろとも私に攻撃をしてきやがる。一方的に私が不利だった。
しかし、それも今をもって終わった。周りのエイプたちが1匹もいなくなったからだ。長かった。
月はあれから1回も顔を出さない。すぐにでも雨が降りそうな天気だというのに、あのゴリラはまだピンピンしてる。しかし、何度も銀ゴリラの動きを見切ってきて、動きについていけるようになった。それにこの戦いの最中にLvも上がったんだろう。最初のころに比べて、負担が少なくなってきた。
短剣を仕舞い、再び槍を取り出す。このまま、耐久を続けても勝てない。ここで勝負に出て、シルバーエイプを倒す。薬草を食べ、気合を入れなおす。
はぁーすぅー……――
「かかってこいや! くそゴリラァ! 私がぶっ倒してやるよ!!!」
――銀ゴリラの右拳の振り下ろしを左に躱す。
詰めようとするも、途中で軌道を変えて薙ぎ払ってきた。私はジャンプして回避。即座に左拳のカバーも来るが、ここでいったん引く。振り切ったのを確認し、全力で駆ける。
1番最初は避けられた。2番目は急所を外した。そして今回。
「はああああああ!」
私の全力の突きは銀ゴリラの足元に突き刺さり、大量の土煙と砂を巻き上げた。
銀ゴリラに攻撃は当たらなかった。
狙い通りに。
今回の私の狙いはあの銀ゴリラを砂まみれの埃まみれにすること。奴は最初から汚れることを比較的に避けていた。
エイプたちとの戦いにあまり参加しなかった。
土煙にまぎれた私に攻撃をしてこなかった。
足元に刺さった槍を大きく避けた。
出血を抑えるために剣を抜かせなかった。
投げる砂に警戒し、多少の汚れは覚悟しつつもエイプたちに攻撃させた。
おそらく、汚れが体毛の輝きをそこねてしまうからだろう。そして、その読みは間違いではなかった。銀ゴリラの輝きが弱くなり、私の様子を真剣に観察している。
「さぁ、くそゴリラ。最終ラウンドといこうか」
銀ゴリラの強化は弱まり、私が優勢。
勝てる。そう確信した私は、仕上げのための短剣を取り出し、腰に装備する。
そして、ゆっくりと槍を構える。
……風が止み、森が静まり返る。
――森に2つの地面を蹴った音が響く。
シルバーエイプは突進。私は空高くに向けて跳躍。その様子を見たシルバーエイプは突進を止め、右腕に力を込め始めた。
そして、その時は訪れる。
シルバーエイプの剛腕は見事、私が着ていたマントを捉える。
手ごたえがない事に驚き、硬直してるシルバーエイプの頭蓋に全体重と全身全霊の力を込めた落下攻撃をぶち当てる。
頭が地面に槍で縫い付けられていて、シルバーエイプはピクリとも動かない。そのことを確認し、シルバーエイプの消失を待つ間に、最後の攻撃の前段階に使ったもの――上空で脱いで投げた短剣とマント――を回収しに行く。
勝利の喜びからか手が震えて上手く掴めない。勝った、勝ったんだよな……
HPも少ないし、なにより疲れた。
シルバーエイプが経験値に変わり、光が私を包む。
そして、いつの間にか雲は晴れ、夜明けを告げる太陽が東から昇り、森を明るく照らし出した。
「帰ろう……」
私は転移の指輪を起動した。
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