第9話 修羅の2日間―その2

 森が騒がしい。私は少しの不安を感じながら、体を起こす。

 本来、トレントが生息している領域は森の神聖な場所で他の魔物は立ち入らないはず。だから、私は安心して眠っていた。

 それなのになぜ、たくさんの猿が私を取り囲んでいるのだろうか?

 エイプかな? なら、レッサーモンキーがいるはずなんだが……見当たらない。


 敵の正体を探っていると、猿の群れを割って銀色のゴリラが現れた。

 あれはたしか、シルバーエイプだったかな。エイプの最上位種で群れの長を務め、エイプやレッサーモンキーを手下として操ることが出来る。


 ん? 。そして今の状況。

 もしかして、ピンチ?


 次の瞬間、シルバーエイプが吠える。すると、今まで動いていなかったエイプたちが襲い掛かってきた。

 ここは一度引かないとまずいが、平面に逃げ場がない。ならば!


 私は大きくジャンプして、襲い掛かるエイプの波を躱す。そのまま、エイプを踏みつけもう一度ジャンプ。よし、これであの群れから突破でき――


 私は背中に強い衝撃をうけた。咄嗟に受け身をとることで地面への衝突は避けたが、何が起きたか分からない。私は先ほどまで飛んでいた場所を見ると、そこにはシルバーエイプがいた。しかし、やつは動くそぶりは見せず、エイプたちがまた襲ってきた。

 なるほどね。こいつらを倒せってわけか。

 私は腹を決めるために、深呼吸をした……よし、行ける!


 エイプは決して弱くない。ゴブリンやスライムのように一撃とはいかず、数度の攻撃が必要になる。さらに連携がうまく、今も波状攻撃を仕掛けてきたり、囮を使った攻撃などもしてくる。

 しかし、私に複数をまとめて倒す魔法なんかはないし、ここを早く抜け出せる方法もない。


 エイプを倒すことから戦闘不能にすることに切り替える。

 エイプA、B、Cの攻撃を針の穴を通すように回避。隙ができたエイプAの眼を剣で切り裂く。悲鳴をあげ、たじろぐエイプAを放置し、エイプBには眼を狙うと見せかけて、両足の腱を斬る。動揺してるエイプCの片腕を吹き飛ばし、足元を払う。そしてガラ空きになったのど元に剣を突き立てる。

 そうこうしてるうちにまた別のエイプが襲ってくる。

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 ___

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 紙一重の攻防が続き、動けるエイプの数が半分くらいになった。

 私が転がっているエイプにとどめを刺そうとしたとき、背後から大きな威圧を感じた。即座にその場を飛びのき、後ろを振り返る。私がいた地面は抉れ、そこにいたのは……やはりシルバーエイプだった。やつの参戦と同時にレッサーモンキーたちも加勢に来て、数だけなら最初のころよりも増えてしまった。


 舌打ちしたい気持ちを抑え、剣を構え、相手を観察する。

 シルバーエイプはよそ見をしたり、尻を掻いたりと、余裕の態度をとっており、完全に油断している。周りのエイプたちが来る前に仕留める!

 息を整え集中し、足に力を込める。


 私は銀ゴリラとの間合いを一呼吸のうちにに詰め、上段に構えた剣をやつの首筋めがけて振りぬいた。が、剣に手ごたえはなく、斬ったのは空のみ。驚愕してる私の顔面に強烈な右拳が迫る。全力で後ろにスウェーし、ギリギリ避けることに成功した。すぐさま足を蹴り上げ、攻撃をしつつ体勢を整える。銀ゴリラの追撃を警戒したが、その様子はなかった。


 私が手下のエイプたちと交戦を始めても、その様子は変わらない。あの白いゴリラは何がしたいんだ? 群れの戦闘訓練? それとも、数減らしか? 行動原理が分からなすぎる。しかし、それを解き明かすことが、現状を打開する可能性を秘めている気がしてならない。


 ここは元々トレントの縄張りだし、私が何かしたわけでもない……


 そんなことを考えていると、またシルバーエイプが動き始めた。

 群れの数は半分以上いるし、エイプにとどめを刺してるわけでもない。先ほどとは違う原理だ。月明りを反射して銀色に光る体毛が嫌でも目に入る。やつとの戦闘を覚悟するが、すぐに動きを止めた。

 不思議に思い、観察すると体毛が銀から白に変わっている。そういえば、さっきも動きを止めた時は白かった。


 月か!


 なら、今のうちに逃げて……って、うまくいきませんよね。

 シルバーエイプは再び動き出し、私にゆっくりと迫ってきた。


 ふぅ……はっ!

 いきおいよく前進し、地面を素手でぶん殴る。土煙で目くらましをし、跳躍。銀ゴリラの背後に回り、足の腱を狙う――が避けられる。

 銀ゴリラは回避した勢いのまま裏拳を放ってくる。私はわざと当たり、大きく飛ぶ。距離を稼いだ後、槍を取り出し、近づいてくる銀ゴリラの足元に向けて投擲とうてき。これには意表を突かれたのか大きく回避する。しかし、もともと当てる気のない攻撃。回避した隙は見逃さない。

 私は再びやつの足の腱を断つ――と見せかけて、さらにもう一歩踏み込み、股下を切り裂く。銀ゴリラはたまらず膝をつく。そのままの流れでやつの背中を踏み台に跳躍し、大上段から下がった頭蓋に向けて一撃。

 しかし、銀ゴリラの反応が速く、頭ではなく肩に斬りかかる形になった。

 傷口は深いが致命傷ではない。銀ゴリラもそれに気づいたのか、筋肉に力を入れ剣を抜けないようにした。


 仕方なく剣を離し、近くの地面に刺さっている槍を手にする。

 それにしても、月が全然隠れない。やつの足も削ったし、逃げれるとは思うが、最善を尽くしたい。それに、動きが鈍ったのなら、その隙にぶったぎることも出来る。

 ここまでやれたんだ。シルバーエイプを倒すのも悪くない。


 そんなとき、月が雲に隠れ始めた。

 来た! のど元にこの槍を突き立てれば終わりだ。

 私はクルクルと円を描くようにやつの周りを回って、動きが鈍るのを待った。そして、やつが膝をついたのを見てから走り出す。

 だが、シルバーエイプが全身から淡い光を放った次の瞬間、吹き飛ばされていたのは私の方だった。




 クソッ、油断した。あんなのありかよ。今は月が隠れてるってのに、動けるなんて……

 しかも、さっきより全然強いし。これはきっついわ。

 私の視線の先にはの姿があった。

 はぁ~月の光を吸収とかそういうパターンかなぁ……

 私は薬草を食べながら、悲鳴をあげる体に鞭をうって、体を起こす。


 武器は不慣れな槍でHPも残りが少なそうな私。

 相対するはピカピカ光って、めちゃくちゃやる気になってるシルバーエイプ。


「第2ラウンドと行きますか!」

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