閑話 情報収集―その1

ア「ぷはー! 仕事終わりのエールはうまいな! それにしても、カグラの肩書きはすごいぞ。異世界人で勇者なんて何年ぶりだ?」


カ「前は転移の魔女様のところの『サトル・ミカヅキ』で、200年くらい前よ。異世界人も勇者も珍しくないけど、異世界人っていうのは勇者になっても隠すことが多いって聞いたことがあるわよ。なんでも目立ちたくないとかっていう情けない理由よ」


エ「ってことは、もっと最近にもいるかもしれないっすね。カグラさんはアステライトの姓なんで千里眼の魔女様のところ出身なんすか?」


私「うん。彼女はこの近くに住んでるの?」


シ「違うともあってるとも言えないです。5人の魔女様達は家ごと移動してると聞いたことがあります。異世界からの旅人を迎えにいくために光の精霊様の神殿を転々としているんだそうです」


私「なるほど、だからすぐに消えちゃったのか。彼女も忙しいんだね」


ア「千里眼の魔女様は最も新しい魔女様だが、すでに何人も導いたみたいなんだ。だから彼女がアステライトってつけるのは分かったんだ。でも、あの人は他の魔女様に比べると仕事が雑らしい」


カ「というのも、最低限の知識と教養、装備だけ渡していち早く、【アレシオン】に出すらしいわ。仕事が早いという人もいるけど、他の魔女様は最低でも1週間は面倒を見るらしいからね。雑と言われても当然よ」


エ「一説によるとっすね。アタフタしたり浮かれてる旅人を千里眼の能力で見て楽しんでいるとか言われてるっすよ」


私「まじか。けど、たしかにあの人ならやりかねないかもしれない。私も【スライムの森】で3日間も迷ったし、大変だった。早くお風呂入りたーい」


シ「3日間も……それは大変でしたね。千里眼の魔女様を信仰してる方々が減っていっているのも、そういうやり方のせいだと伺っています」


ア「なんだカグラ。風呂入りたいのか、飯食い終わったら行ってこい。部屋は俺が借りといてやるよ」


私「え? アイル、それは助かるわー。ところで魔女様達って、つける姓は固定なの?」


カ「そうよ。何人も異世界人は来るのに、いちいち名前を全部考えるのなんて面倒でしょ。それに、名前だけで異世界人って分かるのは私達にとっても有難いのよ」


エ「異世界人は強大な力を持ってるからっすね。その力がこの世界のために使われないと困る人がたくさんいるからっす」


シ「その点カグラさんは大丈夫そうですよね。勇者は優しい心と強い意志が必要だと習いました。私もいつか勇者になってみたいです。でも、カグラさんならスライムキングに強い魔法を撃てば、倒せそうだったのに倒さなかったんですか?」


私「ぐはっ……シャロンは痛いとこを突いてくるね。実は私、魔法を全然使えないんだ。勇者になってからパラメータ的には使えるはずなんだけど、使い方が分からなくて」


ア「ははははは! なんだ勇者なのに魔法が使えないのか?」


エ「それは大変っすね。でも、あのスライムキングに剣でダメージを与えていたんすから、なんとかなりそうな気もするっすよ」


カ「私でよければ、初歩的なことは教えるわよ?」


シ「私もカナンのお手伝いします!」


私「カナンにシャロンもありがとー! それに比べ男共は……お前たちの中に、魔法を使いながら戦いたいという男心はないのか?」


ア「剣だけの方がかっこいいだろう」


エ「短剣だけでいいっすよ。それにカグラさんにも男心はないっすよ」


私「これが私の世界との差か……」


 私はカナンとシャロンと一緒に風呂に入る……わけにはいかないので一足先に入った。出た後は、彼女達の部屋で魔法の勉強を始めるのだった。

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