第3話 可愛い私

 【スライムの森】での騒動の後、アイル達や凄腕冒険者達に伴う形で町に向かった。


 その町は【中立国家ブルノイユ】に属する東端の小さな町だ。町人は皆優しく農業や畜産、荒れ地の開拓を生業としている田舎の町。そんな町はずれにある一際賑やかな建物。2階建てで何回もの補修工事の跡が残る屋根。側面にある大きな窓からは中の様子がよく見える。正面には2階まで続く木製の大きな扉。その建物は冒険者ギルドの支部の1つ。いつもは賑やかなギルドだが、今日は音1つなく静けさを保っている。私達は扉を開き、静かなギルドの中に入って行った。


 扉の開く音と多くの足音、それに気付いた冒険者達の視線が一斉にこちらを向く。そして、その中の1つがこちらに向かって歩いてきた。


「おい。アイル、お手柄じゃねぇか。こりゃ昇格試験はクリア扱いでもいいかもな」


 高い身長に渋い声。捲られた袖から見える鍛え上げられた腕は無数の傷を刻んでいた。一目見ただけで、彼が数々の修羅場をくぐってきた歴戦の猛者であることは明白であった。日本で見たら間違いなくヤの付く人と間違えそうな怖さだ。


「オウルのマスター、止してくれ。あんたに出された試験はちゃんとクリアしてきたんだ。でもどうせなら、2ランク昇格でも俺はいいんだぜ」


 アイルはそんな彼を「マスター」と呼び、軽口を叩いていた。もちろん絞められていたが全面的にアイルが悪いので誰も止めはしない。アイルは必死の抵抗もむなしく力尽きた。彼はアイルを絞め終わると、今度は私に近づいてきた。のびてるアイルにはシャロンがこっそり駆けつけていた。


「農家のオヤジが見たってのはお嬢ちゃんだろう? アイル達を助けてくれたこと、ギルドマスターとして感謝しよう。俺の名前はオウル。だ。よろしく頼むぜ」


 そう言いながら、ステータスを見せてくれた。

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オウル

36歳 男性

種族:ヒューマン

職業:戦士

称号:ギルドマスター

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「お嬢ちゃんにLvやパラメータを見せてやれなくて悪いな。こんな荒くれ共をまとめてるんで舐めらるわけにはいかないのさ」


 オウルはのびてるアイルを指差しながら言った。冒険者ギルドのマスターも楽じゃないんだなと思いながらステータスを開いた。


「初めましてオウルさん。私の名前はカグラ・アステライトといいます。異世界から来たばかりなので色々と分からないことがありますが、こちらこそよろしくお願いします」

_______________

カグラ・アステライト

18歳 女性

種族:ヒューマン

職業:勇者

称号:異世界からの旅人

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 ステータスはオウルさんにしか見えないようにした。今この場で要らない騒ぎを起こす必要がないからだ。彼はそれを察し、小声で「明日またギルドに来て、俺を訪ねてくれればいい。今日はアイル達にでもおごってもらえ」と言い残し、仕事に戻っていった。オウルさんは見た目によらず優しいひとなのかもしれない。

 そう思い、残された私が振り返ると、そこには先ほどまでのびてたアイルが待ち構えていた。いつの間にかにシャロンによって復活させられていたのだ。


「君に俺達からお礼をさせてほしい。よかったら、付いて来てくれないか?」


 断る理由もなく、オウルさんもそうしてもらえと言っていたので、私は二つ返事で了承の意を伝え、彼らの案内について行った。




 彼らの案内に続くこと数分。ギルドから少し離れた場所にある宿屋についた。

 2階建ての大きな宿屋だった。私達が入ると受付の娘がすぐに対応してくれた。


「アイルさん、エイトさん、カナンさん、シャロンさんお帰りなさい。あと…そちらの方は?」


「カグラさんっす。危ないところを助けていただいたっす。そのお礼にここの美味しいご飯をご馳走しよう!って感じっす」


「そうでしたか。では、もう夕食の時間ですので、右手にある食堂でごゆっくりとお過ごしください」


 彼らはここの宿屋と顔見知りのようだ。ここに泊まっているのだろうか。あ、この世界の通貨の価値とかも分かんないな。アイテムボックスを漁っても、たくさんの種類の硬貨があってさっぱりだ。


「んじゃ、カグラさんこっちっす」


 エイトに連れられて、私は食堂に向かった。私達は席に向かう途中、色々な冒険者の人に声を掛けられた。「お、アイル新しい女か? シャロンが嫉妬しちまうぞ」や「お嬢ちゃん可愛いね。どこから来たの?」など、その多くが私に対するものだった。特にナンパが激しい。


 宿屋に来るまででも通り過ぎる人が男性、女性にかかわらず、私の方を見てきた。最初はアイル達が見知らぬ女を連れているってことで見られているかと思った。しかし、男性の中で私の事をジロジロと見てくる輩がいて思い出した。


 ……私、可愛いんだったと。


 当然、食堂という空間なら声を掛けられるというわけだ。そんな奴らをカナンが「はいはい、どいてどいて。ほら、そこ近づかない」と、慣れた動きで散らしていって、ようやく静かな奥のテーブル席にたどり着いた。

 私は女、疲れるわーと思いながら、椅子に深く腰掛けた。


「カグラみたいに綺麗すぎるのも考え物ね。疲れたでしょ何か飲む?」


 あーカナンの優しさが骨にまで染み渡りそうだ。「じゃあ、カナンのオススメで」と頼み、私は全て任せることにした。


「エール2つと葡萄酒3つお願い!」


 私、お酒飲めるのかな……まだまだ異世界に慣れない私なのであった。

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