第2話 森の主との激闘
森の中を私は全力で駆け抜けた。
地球にいた時に比べ、体が軽く感じる。こういう時にしか脳筋パラメータをありがたく感じられない。私はつい楽しくなってしまい、悲鳴を上げたと思われる男性の横を通り過ぎてしまった。
「おい! 嬢ちゃん、そっちは危険だ! こっちに来い。早く逃げるぞ!」
あれ? なんだ平気そうじゃないか。心配して損した気分だ。
私は状況確認のためにも男性の指示通り、彼と同じ方角に逃げることにした。
「今、通りすがりの冒険者達が時間を稼いでくれているが、そう長くは持たないだろう。なんせ相手はこの【スライムの森】の主、スライムキングだからな。しかも、この森に来るくらいだ。最低のFランクくらいだろう。パーティーのリーダーはよく状況が分かっていやがった。だから俺はあいつらを信じて、近くの町まで助けを呼びに行くってところだ。町まで行けば、他に強い魔法使いも……」
私はその話を聞き終わる前に、彼とは反対の向きに方向転換した。
なぜかって? 私も加勢すればより時間を稼げると思ったからだ。
うんうんと彼の話に頷きながら聞いていた。彼の言う通りならスライムキングなる魔物は、Fランク冒険者達がパーティーを組んでも厳しい相手ということだろう。私は勇者だが、どこまでやれるかは分からない。最初は倒せないかもしれないと思ったから躊躇してしまった。
しかし、時間を稼げば助けが来るならどうだ?
少しでも冒険者達が生き残る確率を上げるためにも、私が加勢するのは当然の流れだろう。彼はそんな私の考えを知らないために戻るように声をかけてくれた。
その言葉に私は一度足を止めてから、彼に言った。
「大丈夫だよおじさん。私も戦えるから、加勢しに行く。おじさんは助けを呼びに行って」
ちゃんと言葉が通じたか不安だったが、彼は私の言葉に強く頷くとまた走って行った。どうやら光の精霊様はちゃんと仕事をしてくれているようだった。
彼の後ろ姿を見送っていると後ろから怪物の咆哮が聞こえた。
「急がないと……」
私は咆哮が聞こえた方角に向かって走った。
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段々と様々な戦闘音が聞こえるようになってきた。
魔法を詠唱する女の声、敵の大技に備えるように注意をする男の声、仕掛けた罠に誘導するよう提案する声、強化魔法をかけたと報告する女の声。
冒険者パーティーは4人か。この世界に来てから耳もよくなったので、戦いの様子が離れた位置からでも把握できる。恐らく、魔法使い、戦士、盗賊、僧侶というバランスのとれたパーティーなのだろう。私はその情報から加勢の仕方を色々と模索していた。
もう少しで彼らの姿が見える。
「ステータス、オープン」
名前、種族、職業、レベルを表示させ、私はその時を待った。
「見えた!」
森の中にある開けた場所で彼らは戦っていた。
聞き取れた通りで彼らは四人。スライムキングは1体で周りには手下のスライムが大量に湧いて出てきていた。
スライムキングはその名の通りでっかいスライムだった。背は私より大きく2m近くあり、横幅は私の3倍近くある。動きは遅く、攻撃は重そうだが私には問題ない。
しかし、彼らの状況は深刻だった。前衛の戦士は瀕死の状態で中衛の盗賊もあまりのスライムの数に対応できていない。後衛にまでスライムが迫ってきていて、僧侶と魔法使いも上手くサポートしきれていなかった。
私は当初の予定を変更して動きを開始した。
まず、盗賊の彼が逃し後衛に流れてしまっているスライムを倒す。
そして、彼らが何事かと驚いたところで叫ぶ。
「私も時間を稼ぎに来ました!あなた達に加勢させてもらいます!」
その後、近くにいた魔法使いっぽい彼女にステータスを見せる。
「私のことはカグラと呼んでください。指示をお願いします」
完璧だ! 決まった。文句なしの登場シーンだ。彼女は私のステータスを確認すると、驚きの声を上げ戸惑っていた。しかし、今は戦闘中であることを思い出したのだろう。即座に表情を真剣なものに変えた。
「分かったわ。私の名前はカナンよ。きついかもしれないけどアイル…えっと、前衛を休ませたいから、交代してもらえるかしら」
彼女は私という未知の戦力がどの程度か見抜き、どこに配置するかを考え、なにより初めて会う私を信頼してくれた。彼女は出来る女だ。私はすぐに前衛と交代することにした。
戦士っぽい前衛のアイルのもとに駆け付ける間に、アイテムボックスから少し大きめの青銅の盾を取り出した。パーティーで前衛を務めるならば避けるのではなく受け止める必要がある。そのためには、こいつが必要だ。
アイルが注意を引き付けている隙に、私は走った勢いそのままにスライムキングに一撃を加えた。かなり力を込めて攻撃したが、すぐに再生してしまった。
それでも、十分な恐怖はあるのだろうか。見事に私は敵の注意を引くことが出来た。続けざまに二度三度と攻撃を加えたが、やはり、スライムキングはびくともしない。
そうしていると、盗賊っぽい彼が近づいてきた。
「カグラさん、助太刀感謝するっすよ。自分はエイトっす。今アイルはシャロンに回復してもらってるっすよ。ついでに、1つだけアドバイスっす。奴には物理攻撃が効きにくいってだけで、おたくの攻撃は無意味ってわけじゃないっす。おたく、スライムをすごく綺麗に倒してたっすよね? あの要領でやるといいっすよ」
エイトはそんなことを言いながらも俺の周りのスライムを一掃すると後衛の守りに戻っていった。颯爽と現れ、颯爽と消える。なんてかっこいいやつなんだ。
そして、彼の言葉をきいて納得した。
私はこいつを大きな岩や水の塊だと思い、力任せに殴っていた。スライムも最初、破裂したからそれでいいものかと思っていた。だが、こいつを倒すには力だけではなく技が必要なのだ。それはあの辛く厳しい「いかにスライムを美しく倒せるか選手権」で培った技術であるということだ。
当然、私が考えてる間にもスライムキングは攻撃を仕掛けてくる。何回も捌いたのしかかり攻撃を躱し、私の地獄の三日間の成果、スライム必殺斬りを放った。
その技はとてもシンプルだった。
1つ、横一文字に素早く斬り裂く。
2つ、スライムの体が自壊を始める前に、今度は縦一文字に斬る。
以上。こいつの場合は自壊ではなく再生だが、上手くいったようだ。
スライムキングは悲鳴を上げて後退りをし、私の動きに注意している。それなりに知性はあるようだ。私の目的は時間稼ぎ、あえて攻撃はしない。そのためにお互い、にらみ合ったまま私とスライムキングは膠着状態に陥った。
ながらく、そうしていると急に体に力が漲ってきた。それと同時に雄叫びを上げながら、アイルがスライムキングに体当たりをした。
「カグラ、加勢に来てくれてありがとう。俺はアイルだ。俺が奴の注意を引くから、エイトと協力して後衛の負担を減らしてくれ。そのためにもまずは、シャロンのところまで戻って、体力を回復してもらうといい」
「分かりました。それではあとを頼みますね? アイルさん」
俺がそう言い残すと彼は豪快に笑いながら、あぁ、任せておけ。と答えてくれた。なんとも頼りがいのある兄貴肌なやつだ。私はまだ万全ではない彼のためにも、エイトのように周りのスライムを倒してから後ろに下がった。
「カグラさん、こちらへ。私の名前はシャロンと言います。今、回復しますね。
光の精霊よ。カグラに癒しを。『
おおお、初めて見る魔法だ。実を言うとあまり怪我はしていなかったのだが、体の疲れまでもとれていったのは驚きだった。どうやら先ほど、力が漲ってきたのはシャロンの強化魔法の効果らしい。アイルの体当たりのタイミングぴったりに掛けるとは彼女も出来る女かもしれない。
その後は私とアイルが前衛、後衛を交代しながら負けないように戦っていた。私が加勢してからは形勢が安定して、楽になったと思う。これも全ては出来る女カナンの的確な指示のおかげだった。
しっかりと時間を稼いだ私たちはおじさんが呼んでくれたであろう応援の冒険者達が到着したことでお役御免。
スライムキングは凄腕冒険者のなんかすごい氷の魔法で無事倒されたのだった。
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