第1章 中立国家ブルノイユ

第1節 東端の町

第1話 旅立ち

 やあ、俺もとい私の名前はカグラ・アステライト。元の名前は神楽坂藤介。ひょんなことから異世界に転移してしまった日本の高校生だ。千里眼の魔女レイスの助けを借りて、ようやく異世界冒険の始まりだ。私はまず【中立国家ブルノイユ】を目指し、神殿を出た後はひたすら東に向かって進行していた。


 そして今、木の上からスライムが降ってきた。




……もう何度目の遭遇だろうか?私は剣を一振りしてスライムを倒した。


―――神殿を出たすぐの話だ。


 私も初めのころは、スライムを発見したらコソコソと隠れながら逃げていた。しかし、途中でレイスの話を思い出した。そう、【魔物を倒すと経験値を得られてレベルが上がる】という話だ。私はアイテムボックスから駆け出し冒険者用の銅の剣を取り出すと腰に差して装備した。

 そのすぐ後だっただろうか。また、スライムが現れた。何回もスライムから逃げてきたことから、奴らの行動パターンは把握済みの私に死角はない。


 スライムは接敵するといきなり、体当たりを繰り出してくる。今回のスライムも例に漏れず、同じ行動をとってきた。そのことに微かに笑みがこぼれるが私はすぐに気を引き締めた。

 スライムは体当たりを避けられるとしばらく様子を見る。そして、全力の突進を行い、その後に隙が出来る。


(ここだ!)


 私は全力で剣を振るった。剣の振り方なんかは知らないので、ゲームの見様見真似である。その割には、剣は寸分違わずに思った通りに動かすことが出来て驚いた。


 そのままの軌道で、スライムに剣が命中した。すると、スライムの体はパァンという小さな破裂音を立てながら、木端微塵にはじけ飛んだ。


 私はその光景に言葉を失った。それもそのはず、返り血ならぬ返りスライム液のせいだ。せっかく、レイスに貰った新品の服がビチャビチャになってしまった。

 どうしたものかと考えていたら、付着したスライム液や遠くに吹き飛んだスライム液までもが黒い靄を上げながら、消え去ってしまった。これも光の精霊様のおかげなんだろうか。なんとも便利なものだ。

 しばらくすると僅かな光がわたしを包み込んだ。レベルアップか?と思いステータスをレベルのみ表示に設定し、素早く確認したがレベルは18のまま動いていなかった。ということは、あの光が経験値ということなのだろう。

 1人、納得した私はもう1つの問題について考え始めた。


 それはスライム爆発事件についてだ。この世界に来て、初めての戦闘だった。あっけなさすぎたが私の初陣だ。それなりに緊張もあった。しかし、自分の力の確認もしなかったのは大きなミスだろう。


 なのだから、たとえ駆け出し冒険者用の銅の剣でATK+3程度だろうと絶大な威力を誇るのだ。


 そのことを痛く思い知った私は、スライムに対して発見次第、毎回のように力加減を変えて斬りかかった。結論から言うと、スライムが弱すぎてよく分からんという成果だった。撫でるように振るっても体の輪郭を保てなくなり、ドロドロと消えてしまう。

 やけになって、周辺の木々にも軽く斬りつけてみたが、根元から薙ぎ倒してしまった。それ以降は確認する気も失せたので、いかにスライムを美しく倒せるか選手権を1人で寂しく開催し始めた。

 スライムを倒す度にステータスを確認しながら、進んでいるが一向に変化が起きない。やはり、お約束通りスライムは魔物の中でも弱いほうなのだろう。


―――ここで思考を現在に戻す。


 また目の前にスライムが現れたのだ。私は熟練された職人がごとき絶妙な力加減でスライムを一瞬のうちに絶命させる。実はスライムとの遭遇率は高くない。では、なぜそんなにスライムと遭遇するのか。簡単なことだ。

 目の前にまたがある。


「……迷った」


 私も東がどちらかは分かってる。太陽が昇ってくるのが東。地球のこの常識が通用するのはレイスの長い話にも出てきたんだから間違いない。そうでなければ、アイテムボックスは渡すのに方位磁石を渡さないという行動を理解できない。

 当然、腹も減るからアイテムボックスに入れてきた食料も減り続ける。

 このままではまずい。私がそう思っていると、遠くから叫び声が聞こえた。


「クソ! 誰でもいいから助けてくれ!!! 森の主が出やがった!」


 これぞ、光の精霊様の導きだと言わんばかりの展開だ。しかたなく、私はその導きに感謝し悲鳴が聞こえた方向へと駆け出した。

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