第7話 私の夢
「さて、これで君は正式にこの世界に生きる住人になった。そして、今この場は光の精霊様が祝福してくれている。カグラ、君は何のためにこの世界で生きるのかい? 思う存分思いの丈を世界にぶつけてみるといい。きっと答えてくれるさ」
光の精霊様の祝福。
それは、異世界人やこの世界の歴史に名を刻むような者の名づけを行われる際に発生する。これは、生まれ持って世界に愛されている者たちに対して、世界が文字通り祝福を授けてくれるものだ。言ってしまえば、夢を叶えるための後押しを全力でしてくれるということだ。
「恥ずかしい話なんだけど、俺……あぁ――っと、私は昔アニメで見た戦隊モノのヒーローや仮面ライダーとかに憧れてたんだ。かっこよくて優しい正義のヒーロー。男の子なら誰しもが通る道だとは思うけど、少し度が過ぎるというか……正直、周りからは変な子だと思われてた。それは小学校、中学校、高校と歳を重ねていっても変わらなかった。なんなら、アニメやゲーム、それこそリアルにだって偉人として英雄ってのはいるわけで、憧れは段々と大きくなっていくばかりだった」
「これは私の興味本位なんだが、君はあっちの世界でなんの職業に就きたかったんだい?」
「ヒーロー。でも、そんな職業はないわけで警察官、医者、弁護士、消防士、自衛隊員……色んなものに憧れたからこそ何か一つに絞るっていうのはできなかったんだよね」
私は軽く苦笑いを浮かべた。
「でも、そんな私だったからこそ今回は脇道に逸れず一心不乱に突き進みたい。私は、この世界の人々を全員笑顔にできるようなヒーローになりたい。そしてそのためにも、自分の足で世界を冒険してこの素晴らしい世界を見て回りたい。それがこの世界で私が叶えたい夢だ!」
「そうか。しかし、君の選ぶその道はひどく険しい道だよ。笑顔にできない人もいるかもしれない。それでも君はその道を行くんだね?」
レイスはそう告げるとじっとに見つめてきた。私はその言葉に力強く頷き、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。すると、彼女は笑みをこぼし言葉を続けた。
「なるほど。ならば! 私は君の夢を祝福しよう。そして、君のその夢は世界も祝福してくれるだろう!」
そう告げた次の瞬間だった。時間が止まり、頭の中に声が響く、その声は優しく全てを包み込んでくれるようだった。
―――新たに私たちの世界に迷い込んだ夢を見る小さきものよ。その志はこの世界の新たな光明となることでしょう。あなたの勇気ある行動とその未来に対して、私たちからその信念がくじけてしまわないように、祝福を送りましょう―――
時間が流れ始めた。今のは世界の言葉というものだろうか。しかし、夢の力の内容とかどうやって確認するんだ?
「カグラ。君は何をそんなに呆けているんだい? これで名づけは終わりさ。ステータスを開いて君の夢の力を確認するといい。あれは本人しか見ることが出来ないから、どんなものだったか教えてくれないかい? こんな仕事だから、娯楽はそれくらいしかないんだよ」
なるほど、それは便利だ。レイスは夢の力のおかげでパラメータに補正が入るかもしれないということで、全部見せろと言ってきた。
「ステータス、オープン」
________________
カグラ・アステライト
18歳 女性
種族:ヒューマン
職業:勇者
出身:地球
称号:異世界からの旅人
夢の力:諦めない心
≪通常パラメータ≫
LEVEL:18
HIT POINT(体力):324
MAGIC POINT(魔力):15
ATK(攻撃力):179
DEF(防御力):182
M ATK(魔法攻撃力):30
M POW(信仰力):30
SPE(素早さ):187
DEX(器用さ):190
≪基本パラメータ≫
STR(ちから):18
VIT(みのまもり):18
INT(まりょく):5
MND(せいしん):5
AGI(すばやさ):18
DEX(きようさ):18
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ままままま魔法が使えるようになってるだと!?
まあ、数値は何とも言えないが、魔法が使える可能性が見えてきたことは嬉しかった。だが、職業:勇者って大丈夫なの?
魔王とか倒しに行きたくないんだけど……と考えているとしびれを切らしたレイスがステータスを覗き込んできた。
「おや、職業:勇者か。ということは、夢の力は諦めない心か。それに魔法も使えるようになって、めでたしめでたしというわけじゃないか。ということで『え? 私、勇者になったけど、魔王倒しに行くの? 教えて!レイスさん!』って顔のカグラに私が説明してあげようではないか」
久しぶりに思考を先読みされたが、気にしたら負けだ。そして、ドヤ顔のレイスが言うには、ステータスに表記される職業はあくまで【パラメータに補正をかける】もので、光の精霊様の加護の一つだそうだ。そういうわけだから、現実の職業とは別のことが多いらしい。
例えば、戦士の職業をもって土木工事に従事したり、盗賊の職業をもって鍛治師になるなど当たり前らしい。それもそうだろう。レイスが続けた言葉を聞けばそう思ってしまう。
「あと、この世界はパラメータに表記される職業は主に八つしかないんだからね」
とのことである。ちなみに、その8つというのは……
全ての能力が低い村人。
HP、ATK、DEFに優れた戦士。
HP、ATK、SPEにすぐれた武闘家。
MP、M ATKに優れた魔法使い。
MP、M POWに優れた僧侶。
SPE、DEXに優れた盗賊。
DEXに優れ、村人より平均的に高い能力をもつ商人。
そして、決してくじけない強い心を持ち、自分の思い描いた強さを手に入れる勇者。
ちなみに、私の前の職業である学生なんかは異世界人用の例外らしい。その人がどんな職業だったのか。それが分からないことはこの世界に住む人にとっては危険なことなんだとか。
あと、諦めない心の効果は勇者になるってことだけのようだ。そのために、レイスにも看破されてしまったのだ。
魔法が使えるようになったり、ステータスが上がったのは勇者の自分の思い描いた強さを手に入れる効果なんだとか。有難い限りだ。そう思っているとレイスは伸びをしながら、話し始めた。
「さてと、これでカグラに話しておかなければならないことは全部かな。あとは君自身で考え、行動するんだ。なにをしてもいいさ。だが、一つだけアドバイスさせてもらうなら、ここより東に進むといい。そこに一番近い国の【中立国家ブルノイユ】があるからそこを目指すといいさ。それと最後に、これは餞別だ。受け取ってくれたまえ。」
そういうとレイスは、焦げ茶色のマントと二つのアクセサリー、複数の武器を取り出した。
「まず、アクセサリーから説明しよう。この腕輪はアイテムボックスになっていてね、指輪には転移の魔法が記憶させられているんだ。今、指輪を使うことはできないが、便利だから無くすんじゃないよ?」
この人は何を言い出したんだ? そんな高級そうなものいただくわけにはいかないと思った。しかし、これらのアクセサリーはこの世界では生活必需品らしい。武器とマントも駆け出しの冒険者や旅人が身に着けているものと言われた。そして、ダメ押しと言わんばかりに、これらの装備一式を与えるまでが魔女としての仕事。と言われたら、私は受け取るしかなかった。
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……なぜ、こうなってしまったんだだろうか。
私は貰ったものを装備したり、アイテムボックスに武器や食料を入れていると、学ランに茶色のマントは似合わないよ。と、レイスが一言。
たしかに私もこれは似合ってないと思っていた。
というわけで、何をするのか見ていたらフリフリのスカートが出てきた。
あの人のニヤニヤ具合をみるに本気で着させるつもりなのだろうから、即却下だ。その後もあれやこれや出てきたが、しっぽ付きのショートパンツやバニースーツなどろくなものではなかった。
そうやって少しマシなものを選んでたはずだった。そのはずだったのだが……
今の私の服装は歩きやすいロングブーツに黒のショートパンツ、白のタンクトップ。その上から焦げ茶色のマントというどこからどう見ても女にしか見えない格好になっていた。
その格好に気付いて私はレイスに文句を言ってやろうと思ったが、気付いた時にはすでに遅く、彼女の姿は神殿から消えていた。
まったく、別れの挨拶もなしに姿を消してしまうなんて迷惑な人だなと感じたが、レイスらしかった。もし次に会うことがあったら感謝を伝えようと心に決め、神殿を後にした。そして私は一人、東に向かって歩き始めた。
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