第5話 この世界の住人になるということ
俺はまだこの世界の住人じゃない?
いったい、どういうことなんだ?
次から次へと聞きたいことが増えてくる。
「おや? 君なら察しがついているものだと思っていたんだけどな。転生というのは運命だが、転移というのは事故に近いんだ。だから、今ならまだ戻れるんだよ。だから、こうして私たち魔女は君のような旅人達に事情を説明して選択してもらうんだ。この世界に残るか。元の世界に帰るかをね。あと、この選択は一度きりだ。それが、この世界の住人になるということなのさ」
俺は絶句していたが、レイスはそんな俺に構わず説明を続けた。
どうやら、彼女の説明によると俺は迷子とか夢を見ているようなものらしい。何かの拍子にぱっくりと次元の狭間に穴が開いて、たまたまそこにいた人が取り込まれてしまう。しかし、元の身体ではこちらの世界に適応できない。そこで、対象者の夢や希望、恨みなど正負合わせた強い感情を基に身体を再構築する。そのため、自分が夢に描いたような状態でこの世界に渡ってくるそうだ。
気付いただろうか?「自分が夢に描いた状態」である。そのままの意味でとれば、俺が女になることを夢見ていたということになる。
しかし、レイスはそうではないという。重要なものはあくまで強い感情であると。そして、レイスは言う。
「今の君の容姿は完璧だ。もしかして、もう男であったことに後悔はないんじゃないか? つまり、男でも女でもどっちでもいいみたいな感じかな。他にもゲームではネカマしてたとかね。けど、女らしいのが好きなわけではないから、キャラクリは男に比較的近い体系にして――」
「分かった! 分かったからそこまでにしてください。レイスさん本当にすみません! 調子に乗った俺が悪かったんです」
この人は危険だ。色々な意味で、だが……。しかも、まるで俺のしてきたことを見てきたかのように言い当ててきた。実は男であった時の後悔がないと言えば嘘になる。一時期はシュワちゃんみたいゴリゴリマッチョを夢見た日々を過ごしていたからな!
まぁ、三日坊主だったんだけど……って、なんでこの人はこんなに分かるんだ。明らかに怪しいだろ。レイスは慌てる俺の様子を見て、笑みを浮かべたと思ったら、遠くを見ながら語り始めた。
「実はね。君には内緒にしてたんだが、私にも夢があったんだ。ひたすら部屋に引きこもってネットサーフィンをしながら、オタサーの姫的に囲いに貢がせて暮らしていきたいなとね」
あ。この人、人としてダメだ。
「そんなある日、オタサーの姫になりたーい! って強く思ってたら、いつの間にかここにいたのさ。そこで私も君と同じように説明を受けたと思うだろ? だが、そうはいかなかった。私はここに一人だったんだ。その頃はまだ魔女も三人しかいなかったからね。だけど、私はこうして生きてる。そう。なぜなら、私はこの世界でオタサーの姫になったからさ」
この人は何を言ってるんだ? しかも、その頃とか言ってるし、十九歳は嘘だろ。しかも、これ長くなるやつだ。お婆さんとかの「私が若かったころはね~」のパターンだろ。
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「~ということがあったのさ」
その一言でレイスの話は締めくくられた。彼女の話は二時間以上続いた。疲れたが濃い内容だった。彼女が言いたかったことは……
この世界では、夢や希望という強い正の感情は叶いやすいということ。
この世界では、破壊衝動や恨みという強い負の感情を持つと、闇の精霊に魅入られ魔族として堕ちるということ。
この世界は、魔王が発生するが、近年打倒されたばかりなのでしばらくは平和だろうということ。
この世界は、球状ではなく円状で人々の感情を糧に今もなお拡大をしているということ。
この世界は、広大すぎるがために戦争も少ないということ。
この世界にとって、俺やレイスのような異世界人は強い感情を抱きやすいため嬉しい存在ということ。
そのため、俺たちは光の精霊様や闇の精霊などをはじめとした世界に好かれているということ。
世界に好かれると、強い感情を叶えさせるためにスキルや特異体質という形で力を貸してくれるということ。
そのスキルや特異体質のことを夢の力ということ。
の九つだろう。
さて、オタサーの姫の話から何故、魔王やら世界の話になったのか疑問に思うだろうが、俺にもよく理解できていない。ちなみに、レイスの夢の力はオタサーの姫……ではなく、千里眼である。これは異世界でもネットサーフィンしたいというとんでもない理由でいただいたらしい。俺の過去を見たのも千里眼の効果だろう。
以上のことからこの世界の目的は大きくなること。レイス曰く、やがては宇宙みたいな広さになるのではないかとのこと。
方法は世界に住む人々の感情の動きによるエネルギーをいただくことらしい。ちなみに、一番大きなものは達成感らしいので、この世界はそれを得るためなら色々とするため、なんでもありな世界になってるらしい。魔王討伐もその一環だ。
大きくなりたい理由は、人が生きたいと思うのに似てるとかなんとか。
しかも、このことはこの世界に生きる人族なら全員知っていることらしい。これを知って色々と思うところはあるかもしれないが、世界が自分の夢を応援してくれるってのは良い世界なんじゃないかと俺は思った。
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