第2話 ステータスというもの
「さぁさぁ、楽にしていいよ」
「紅茶ありがとうございます。美味しいです」
俺は彼女の家を訪れている。
――少し前のことだ。
洞窟の外は森で、林を分け入った先に彼女の家があった。
最後の一言があまりに衝撃的過ぎたことと、その後の移動が大変だった為にあれ以降会話はあまりなかった。
彼女は家に着くなり俺を席に座らせ、紅茶を出してくれた。そして、俺にここで待ってるように指示をして他の部屋に消えてしまっていた。
やることもないのでその間に部屋を眺めることにすると、訳の分からない実験道具やら、見たこともない植物だったり、初めて見る文字で書かれた本が棚にぎっしりと詰まっていて、改めてここが異世界なんだということを感じる。
そうこうしているうちに彼女が部屋に戻ってきて、現在に至る。
「それはよかった。さて、まずは改めて自己紹介といこう。だけど、この世界の方法でね。ついでに色々と説明もさせてもらうよ」
「この世界の方法ですか?」
どんな方法か見当もつかない俺は首を傾げるしかない。そんな俺は次の一言でここが異世界なのだと再認識させられた。
「ステータス、オープン」
その言葉の後、部屋中から光の粒が溢れだした。
それは彼女の周りに集まり始めるとやがて粒は線となり、文字となり、意味のある言葉を綴り、空中に光で書かれた文が浮かび上がった。
彼女は光で紡がれた文章をまるで風船を突っつくように飛ばし、俺に見せてくれた。
―――――――――――――――
レイス・レオンハート
十九歳 女性
種族:ヒューマン
出身:地球
称号:千里眼の魔女
職業:魔法使い
≪通常パラメータ≫
LEVEL:100
HIT POINT(体力):331
MAGIC POINT(魔力):999
ATK(攻撃力):225
DEF(防御力):219
M ATK(魔法攻撃力):999
M POW(信仰力):0
SPE(素早さ):308
DEX(器用さ):264
≪基本パラメータ≫
STR(ちから):9
VIT(みのまもり):8
INT(まりょく):18
MND(せいしん):3
AGI(すばやさ):12
DEX(きようさ):15
―――――――――――――――
「新たな旅人さん、初めまして。この世界に五人いる魔女のうちの一人が千里眼の魔女、レイス・レオンハートだ。よろしく頼むよ。それで、何か質問はあるかい?」
これが彼女のステータスなのだろう。ゲームで見たようなパラメータ表示から、身分証明になりそうなものまで多くの情報が表示されていた。だが、これはツッコミどころが多すぎるだろ。魔法攻撃力とかは上限なのだろうか999なんてそうそう見かけるようなものとは思えない。
一通り文章に目を通してから俺が顔を上げると、彼女の……いや、レイスさんの凄まじいにやけ顔が目に入ってしまった。しかも、目線までばっちりあってしまい、俺は恥ずかしくなってすぐさま視線を逸らした。
レイスさんは髪型こそ雑に結わいているものの、その容姿は端麗で思わず見惚れてしまうほどだ。
特に胸がすごい。
そんな人と目があってしまった男子高校生としては当然の行動だろう。気を取り直して俺も自己紹介をする。
「神楽坂藤介です。十八歳で高校三年生です。あと……質問はえーと。あ、そうだ。この魔法って俺も使えるんですか?」
俺にはステータスを出せるか分からないので、とりあえず普通に自己紹介した。そして、俺の質問を聞いてレイスさんのニヤニヤがひどくなった気もする。
「ああ、この魔法は今の君にも使えるよ。というか実はこれ、魔法ではなくて光の精霊様の加護の一つなのさ。だから、さっきの私と同じ言葉を唱えれば、確認出来るはずだよ」
え? 魔法じゃないのか。でもそれもそうか。この世界の自己紹介って言ってたから。誰でも使えないとだめじゃないか。
「ステータス、オープン」
さあ、俺の第二の人生が華やかなものかどうかの分かれ目だ。緊張する。そのせいか文が出来上がるまでの間がさっきに比べて長く感じる。
あー、この世界ファンタジーっぽいから魔法とか唱えてみたいな。それで「今のはメ〇ゾーマではない。メ〇だ」とかいってみたいなとか思ったり、あとは……っと、もうそろそろっぽいな。
―――――――――――――――
(神楽坂 藤介)
十八歳 女性
種族:ヒューマン
職業:学生
出身:地球
称号:異世界からの旅人
≪通常パラメータ≫
LEVEL:18
HIT POINT(体力):324
MAGIC POINT(魔力):0
ATK(攻撃力):50
DEF(防御力):52
M ATK(魔法攻撃力):0
M POW(信仰力):0
SPE(素早さ):58
DEX(器用さ):60
≪基本パラメータ≫
STR(ちから):18
VIT(みのまもり):18
INT(まりょく):0
MND(せいしん):0
AGI(すばやさ):18
DEX(きようさ):18
―――――――――――――――
は?
レイスさんのステータスよりツッコミどころしかないんだが!?
俺は色々と問題があるステータスの中でも最後に見つけた。否、最後まで向き合うことができなかった、とある2文字から目が離せなかった。その衝撃に体が固まってしまったというほうが正しいかもしれない。
「やっぱり、君は気がついていなかったみたいだね。お気の毒だけど君はこの世界では女性として生きていかなきゃいけないみたいだね」
ああ、レイスさんそんなにいい笑顔で言わないでください。
「まさか転移でこちらの世界に来たのに、性別が変わってしまうなんてね。私も初めての経験で笑いをこらえるのが大変だったよ」
今までのあなたに対する俺の尊敬を返してほしいものだ。
しかし、転移で性別って変わるものなのだろうか。それに、あのステータスだと魔法の才能も絶望的だし、ただの脳筋じゃないか。どうしよう。異世界初日から帰りたくなるとは思わなかった。
はあ、もう一人称も「俺」から「僕」とか「私」に変えたほうがいいのだろうか。しかし、地球にはスライムやらゴブリンやら蜘蛛に転生した物語もあったし、彼らに比べたらましと考えよう。
「ふぅ。久しぶりに笑わさせてもらったよ。じゃあ、そろそろ真面目に説明していくけど大丈夫かい?」
「はい。レイスさんお願いします」
俺は冷めきった紅茶を一気に飲み込みそう告げた。
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