釣れますか?

これは、母方の伯父の話である。


伯父は、海のそばの旅館で板前の仕事をしている。板前の朝は早い。仕事が終われば家族と過ごす。そのため、趣味の釣りは休日前の夜、家族が寝静まったあとに楽しむのが習慣だった。


その日の夜は、よく釣れたのだという。

海の堤防に立ち、釣りを楽しんでいると、後ろから声を掛けられた。


「釣れますか?」


チラリと振り返ると年配の男性が、伯父のバケツを覗くように立っている。よく釣れる、というような返事をしたそうだ。しばらくすると、また声を掛けられた。


「釣れますか?」


先ほどと同じ男性だ。またバケツを覗くように立っている。伯父はまた少し振り返り、自分のバケツを指差した。しばらくすると、また声を掛けられた。


「釣れますか?」


今度は伯父も振り返らなかった。声が、正面から聞こえたのだ。視線をあげると、竿の少し先、海の上に年配の男性が立っていた。


遠くから、首をのばすようにして、伯父のバケツを覗いていたという。

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