ぱたん、ぱたん

家の近所でランニングをしていたときのことだ。


コースは10kmほどで、途中、とある団地の前を通る。折り返しのコースなので、往路と復路であわせて2度ほどそこを走ることになる。


往路のことである。真夜中であるにも関わらず、干してある布団を叩く音がした。


ぱたん、ぱたんというその音が弱々しく、気味が悪かった。そのため視線をあげて音の正体を確認する勇気は出なかった。


ランニングはそこで切り上げてもよかったが、久々のことで調子も良かったので続行することにした。


復路でも、まだその音は続いていた。しかし、走ることで気分が高揚していたせいか、その音の正体を確かめることに恐怖は感じなかった。


団地のベランダに、布団は干されていなかった。ただ、3階のベランダの手摺に男が腰をかけ、足をぶらぶらと揺らしていた。その足が異様に長く、2階のベランダの壁をぱたんぱたんと叩いていた。


ゾッとした。


それっきり、その男の姿は目にしていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る