第24話『新婚モノクローム』
あれから1週間程度の月日が流れた。結婚式はまだだが、準備は着々と進んでいるらしい。
僕はその結婚式の式場となる場所––––ここ魔王城でぼんやりとその日を待っている。
そう、ハートさんの移動魔法の行き先は、魔王城であった。勇者が魔王城を移動先に指定するだなんて変な話だが、久々の我が家である。いや、我が家と言っても実家の実感は無いわけだが。
しかし、魔王の居住すべき場所は魔王城であり、僕は魔王なのだから、ここが居住空間と言うのは間違いではない。
でも、僕にとって自分の家とはあっちの家であり、この広い部屋はどうも落ち着かない。
この部屋は、以前も僕が魔王城に住んでいた頃にも使用していた部屋であり、広い。とにかく広い。
部屋というより豪邸だ。リビング、ダイニングキッチン、それに書斎もある。ベッドルームは4つもあるし、トイレとお風呂場も2つだ。さらには来客用の応接室まである。掃除の人は絶対大変だ。というか掃除をしているのはハートさんだ。
そう––––僕はこの場所で、ハートさんと共同生活……いや、新婚生活をしている。
ハートさんはとても僕によくしてくれており、料理から、洗濯、家事まで全て完璧にこなした。
本当に本物の理想のお嫁さんといった感じだ。
そんなハートさんとの新婚生活は当たり前の様に楽しく、部屋の広さも合ってか、適切な距離感で共同生活を出来ていた。
ベッドルームは別々だし、お風呂も別々だ。
彼女は僕と結婚するに当たって2つの条件を出してきた––––いや、差し出してきた。
まずは、僕が望むなら一切の接触をしないというもの。
会話、肉体的な接触、ボディタッチやら、頭を撫でるやらである。そして顔を合わせること。
僕はそんな事は望まないし、彼女の事を嫌いなわけではない。普通に話すし、用があったら肩を叩くし、ご飯は一瞬に食べる。要するに最初の条件はNOだ。
2つ目は、望むなら自身の全てを差し出すというもの。
全てというのは、財産やら、土地やら、持っているアイテム、権限、それに彼女自身––––頼めば全ての家事はしてくれるとの事だし、朝も優しく起こしてくれるそうだ。
さらには、彼女曰く初デートも、初キスも、初エッチも––––と。初エッチという言い方は妙に艶めかしいが、彼女が言ったものだ。
これも極端過ぎるものである。
家事は一緒にやればいいし、財産なんて僕は要らないし、土地はちょっと農業出来るスペースがあれば十分だ。それこそ最初から魔王城という、バカでかい土地がある。
それに勇者のアイテムなんて、僕には使い方も分からないし、権限なんてなんの権限か分からない。きっとハートさんにはそれなりの権限があるのだろう。
それと僕は寝起きはいい方だ。その次は、えっと––––まぁ、コレは置いておくとして、とにかくこれもNOだ。
彼女は極端過ぎる––––色々。白と黒しかない。灰色は無いのだ。
寝るときも、全裸で寝ると言っていた。極端だ。
だが、それでも彼女は完璧であった。
彼女の側に居る事は、ある意味スイートだ。決して甘いという意味ではなく、スイートルームなどの、一式、一組、一揃いという意味で。
つまり彼女1人が居ればなんでも出来てしまう。
僕より料理上手だし、僕より家事が出来るし、なんならきっと僕より農業も出来るのだろう。
そして、優しくて綺麗だ。遠くからその姿を眺めていたとしたら、目が彼女の事をよく見ようと、急激に視力が良くなりそうなほどに。
さらにハニーと違って胸を揺らして歩かない。いや、ハニーだって別に意識して揺らしていたわけではないのだろう。いうならば勝手に揺れている。
しかしハートさんは揺れない。胸の大きさはハニーと同じくらいであり、呼吸をしているだけでも揺れる大きさだというのに、一切微動だにしない。
おそらく"ワザと"揺らしていない。瞬きをしないようなものだ。勝手に意識しなくても行なってしまう動作をあえてせずにいる。意図や意味は分からないが……。
そんな異常とも取れる行為を平然とやってのけるのが、モノクローム・スイートハートなのである。
それから、中ボスさんは1日に何回か会いに来てくれた。
相変わらず、あのチャラ魔を探しているらしい。
中ボスさん曰く、カジノに行ってみたけど、居なかったとの事だ。どうせ、他の場所で遊んでいるのだろう。チャラ魔だし。
––––とまぁ、そんな感じで僕はなんだかんだ上手くやれていた。
心配事がない訳ではない。家の庭の野菜や、家賃の事や、それから––––ハニーの事。
どうしているだろうか、やっぱり自分の街に帰ったのだろうか……。
そもそも、どこがハニーの街かも僕は知らない。でも、ハニーの事だ。きっと、上手くやっているはずさ––––
なんていうのは嘘だ。本当はすごく気になる。
––––会いたい。
会いたい。ハニーに会いたい。
僕は、ハニーに会いたい。寂しくて、苦しくて、どうにかなってしまいそうだ。
夜も眠れない程に。僕はいつの間にか、ハニーに抱っこされていないと寝れない体質になってしまったようだ。
まるで、そうされていたのが随分の昔の様に感じられる。
柔らかさと、優しさに包まれた匂い。それが今はなんとも恋しく感じられた。
––––あぁ、そうか、僕はやっと気付く事が出来た。
僕はハニーが好きなんだ。
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