第18話『革靴ラビット』
今晩のハニータイム。と、言うより晩御飯の時間。
帰宅後ハニーがまだ寝ているのを確認した僕たちは、ハニーを起こさずに、晩御飯の用意を始めた。
ハニーは起こさなければ、中々起きないのだ。
そして今日もいつも通り晩御飯が出来上がった頃に起きて来たハニーに、師匠がプレゼントを手渡した。
「……あのっ、ハニーさんっ、ご結婚おめでとうございますっ」
「えっ、あぁ、うん、ありがとう」
ハニーは僕の方をチラッと見る。僕は苦笑いをしながら、そっぽを向いた。その表情で師匠が何をしに家に来たのかを察したようだ。
「開けてもいいかしら?」
「……どうぞっ」
実は僕もまだプレゼントの中身を知らない。カジノの景品の中で、1番レアな物だというのだから、きっと相当凄いものに違いない。
その証拠に箱の中身を見たハニーはニンマリとした表情を浮かべていた。
「何が入ってるんだ?」
その質問にハニーは笑いながら「ちょっと待ってなさい」と言い残し、寝室へと向かった。
––––そして10分後。ハニーが戻ってきた。見慣れない服を着て。
高いヒール、アミアミのストッキング、ハイレグのレザー生地のボンテージ。そして、長い耳。
「ハニーじゃなくて、バニーかよ⁉︎」
どうやら、うさぎの形をしたレアアイテムとは、バニー衣装のことだったらしい。ハニーは得意げな表情で、そのスタイルを見せびらかすように、仁王立ちをしている。
「似合う? 知ってるわ、ありがとう」
「まだ何も言ってない」
「あら言ったじゃない、『ハニーじゃなくて、バニーかよ』だったかしら。全然上手くないわ」
「じゃあ、ハニーならなんて言うんだよ……」
「I love it(これ好き)」
「……I rabbit(わたしはウサギです)か?」
「excellent」
余りにも捻り過ぎた一言は、僕の想像を遥かに超えていた。そして、師匠のプレゼントも予想外の品物ではあったが、ハニーはとても喜んでくれたようだ。
*
晩御飯の後、師匠はハニーに髪を切ってもらった。ハニーは時々自分で髪を切っているらしく、これが中々上手い。
出来上がった師匠の髪型は、とても愛らしく可愛かった。
「ハニーさんっ、ありがとうございます」
「いいのよ、またいつでもいらっしゃい。2人––––いえ3人で待ってるわ」
ハニーはそう言って自身のお腹を撫でた。
「嘘をつくな、嘘を!」
こうして、ハニーとシン・ガリングはちょっと仲良くなったのであった。
あ、そうそう、僕も師匠から結婚祝いと今日のお礼も兼ねて、プレゼントを貰った。
靴だ。黒の革靴。かなりカッコいいデザインであり、プレゼントと聞いた時には、バニーガール衣装をプレゼントに贈ってしまう師匠のセンスから、変な物を想像したものだが、かなりちゃんとしている。
僕は早速箱から靴を取り出し、履いてみた。なんだか少しだけ、いや、確実に背が伸びたような気がした。精神的に成長したとか、そういうのではなく、物理的に。
要するにこの靴––––厚底だ。まったく、師匠はプレゼントを選ぶセンスがおかしいね。こういう靴は、身長の小さな人が履く靴であり、僕には不要な物だ。
まっ、まぁ、たまになら履いてもいいかもね。ほら、せっかくプレゼントとして貰ったんだから、履かないと気に入ってないと思われるかもしれないし。
ちなみに靴を履いて歩く僕の顔は、ハニー曰く、とてもウニョウニョとした、変な笑顔だったそうだ。
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