第10話『胸肉オーダーメイド』

 今晩のハニータイム。と言うよりも、晩御飯の時間。


 ディアはその後、「また来ます!」と言い残し、去っていった。

 反対にハニーはというと、ベッドでお昼寝をしていた。今朝早起きをしたからかもしれない。

 僕はハニーの事を起こさずに、晩御飯の支度を始めた。




 *




 晩御飯が出来上がった頃に、ガサゴソと物音が聞こえた。ハニーが起きたのだろう。しばらくすると、ハニーは見慣れない服装でリビングに現れた。


「あの、ハニーさん? その格好はなんですか?」


「メイド服よ、あなただけのメイド、つまりオーダーメイドね」


 ハニーはいつものキメ顔で「ふふん」と威張って見せた。

 黒をベースとしたロングスカートに、白いエプロン。

 その姿はハニーの上品な顔立ちと合わさり、とても似合っていた。


「どう、可愛い? ありがとう」


「まだ何も言ってないぞ」


「ところでメイトさんはどうしたのかしら? この格好を見せて、わたしの方がいいメイドさんだと教えてあげるわ」


 僕は先程あった出来事を、ハニーに話した。ハニーは黙って僕の話を聞き入り、話し終わると、淡々とした口調で「良かったじゃない」と言った。

 僕はなんて返事を返せばいいか分からずに、無言で頷く。

 ハニーはそれ以上はその事には触れずに、テーブルの上にある晩御飯を指差し、「食べましょうか」と呟き、椅子に腰掛けた。僕も頷いて、椅子に腰掛ける。


「あら、今日は豪勢ね」


「大食いがさっきまでいたから」


「そうだったわね、でも時々遊びにくるんでしょ?」


「うん」


「良かったじゃない、友達が出来て」


「その言い方だと、僕に友達が居ないみたいじゃないか」


「えっ? 居たの?」


「………………魔王になってからは多分居ないかも」


「大丈夫わたしがなってあげるわ、セフレに」


「ハニー早くしないと、スープが冷めるよ」


「知ってる? ビーンズスープってね––––」


「ハニー早くしないと、スープが冷めるよ」


 ハニーは「はいはい、分かりましたー」と文句を言いながら、スープを飲んだ。野菜を避けて。


「野菜も食べないとダメだろ」


「いいのよ、わたしは肉食系女子なのよ」


「太るぞ」


「大丈夫、ほらこれ胸肉でしょ」


「胸肉だと、脂肪が付きにくいのか?」


「逆よ、全部胸に行くの、胸肉だけに」


 ハニーはそう言って、大きな胸をこれ見よがしげに寄せて見せた。あまりのくだらなさに思わず頬が緩む。


「やっと笑ったわね、まったく今回は中々手こずったわ」


「なんで、ハニーはそんなに冗談好きなんだ?」


「そんなの好きな人の笑った顔が見たいからに決まってるでしょ」


 僕はその一言に動揺し、耳が熱くなるのを感じた。


「あ、照れてる」


「照れてない」


「お耳が赤いわ」


「スープが熱いだけだ」


 ハニーは「そう」と嬉しそうにはにかむと、スープを美味しそうにすすった。


「今日のスープはどう?」


「中々美味しいわ、わたしのお気に入りに入れてあげる」


「随分と高飛車だな」


「そう、わたしは胸もデカければ、態度もデカいのよ」


 ハニーはそう言って大きな胸を張ってみせた。まったく、傲慢で豊満にも程がある。

 僕は関心しながら、ハニーのお墨付きの「胸肉の野菜スープ」を一口飲んでみた。

 この料理はハニーが来る前にもよく作っていたもので、食べ慣れたものなのだが、何故か今日のスープは、今まで1番美味しく感じられた。

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