第72話 運命の行き先

 公式サイト強奪事件の後トラタ共和国に戻ると、渚沙はナータから新しいサイトを作ればよいとアドバイスされた。フミたちと戦うことは、やはり生き神ナータのやり方ではなかったのだ。渚沙は、ふたつの有料の公式サイトを新たに作ることにした。ひとつは通常の公式サイト、もうひとつは書籍専用のサイトだ。


 二〇一一年一月。年明けの世界平和会議が終了するや否や、ナータは会議の報告をするための新サイトを開設するように渚沙に頼んだ。

 何故、またサイトを作らなければならないのだろう。仕上げたばかりの新サイトがふたつもあるのに……と渚沙は少し不思議に感じたが、さっそく使い慣れている無料のサイトで新たにアカウントを開設し、手早く作業を終えた。


 その際、先のふたつの新有料サイトが閲覧不能、編集が不可能になっていることに気づいた。さらに、以前渚沙が日記をつけていたフリーサイトにも異変が起こっていた。なんとそこから、例のフミたちに奪われた公式サイトに勝手にリンクされていたのだ。ナータは渚沙にこれらのことを知らせたかったのに違いない。

 

 こんなことをするのはフミの犬であり、弟子の中で一番パソコンを使えるネットストーカーの小室比呂子だろう。なんという恐れ知らずなのか。自分が前科者であるにもかかわらず、小室比呂子はネットサーバーやサイバー犯罪を扱っている公的な機関に、こちら側が悪者であるかのように働きかけたことがわかった。

 それにしても、「神々と交信している」などとぬかす狂者たちのことを一方的に信じ、こちら側に問い合わせもせず、適切な調査もせずに処理してしまう機関とはどんなものなのか。渚沙は唖然あぜんとした。


 ふたつの新サイトを潰されたことを知って間もなく、渚沙は、新しいビザを取得するためにトラタ共和国から一度出国しなければいけない日が近づいていた。渚沙は初めて、日本には絶対帰国したくないと感じていた。

 前回の帰国時のように、渚沙が帰国していることを知られたら、フミの一味がまた実家を攻撃するだろうと考えたからだ。仲の良い友人たちが大勢いるドイツに行く決心をすると、是非うちに来てよといってくれるドイツ人夫婦や友達が何人かいて、すぐに二軒の滞在先が決まった。


 そろそろドイツ行きの航空券を購入しようと考えていたある日のこと。

「ナギサ、おまえは日本に帰らなければならない! フミはなにもしないから心配しなくてよい」突然ナータが、渚沙に大きな声で告げた。


 その場には、側近、ボランティアスタッフ、トラタ共和国人や西洋人がいて、通常より大勢の顔が揃っていた。渚沙も他のみんなも驚いていた。

 そんなふうに渚沙が指示されたのは初めてだ。

 まったく厳しい口調ではなかったが、もう少し小さな声でいって欲しかった。個人的に私にしか聞こえない機会を見計らってとか……。ここにいる誰かから日本に伝わり、偶然フミたちに知られてしまったらたまったものではない。

 まあ、ナータはフミのことは心配しなくていいっていったから大丈夫だろうけれど……。

 

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