第70話 スピ系性犯罪者

 セレナから聞いた話を取り入れ、SNSで警告してから約二ヶ月後のこと。 

 根岸あかりが、自社の人気ピリチュアル雑誌「トライアングラー」にを組んで販売していたことを知り、渚沙は愕然とした。まさに、ナータから、特別に日本に対して警告されていたスピリチュアルと性行為を結びつけた内容だったのだ。


 渚沙がSNSに更新した時は、まだ発売前で印刷もしていなかったはずだ。その雑誌は月刊誌ではなく、毎年四回しか発行しない。次号の内容については毎号予告しているので、渚沙がSNSで更新した時には特集内容は少なくとも四、五ヶ月前には決定しており、原稿も半分以上仕上がっていたと思われる。


 ナータのSNSのフォロワーである根岸社長には、一緒になりたい、確か結婚したい相手がいると本人から聞いていた。渚沙はそのことを心から喜び、社長の幸せを願っていた。

 しかし、社長は自分自身が興味を抱いていること、パートナーと楽しみたいこと、これから雑誌の読者が飛びついて喜ぶであろうと企画していた特集のテーマが間違っていると、トラタ共和国にいる生き神ナータから直接指摘されたように感じ、立腹したのかもしれない。


 それまでも渚沙は、SNS上でについて厳しくバッシングしていた。根岸社長が信じたい、自分が素晴らしいと思っている国内外のヒーラーや霊能者、自分が発行している雑誌「トライアングラー」で扱ってきた事柄のほぼすべてが否定されていたに違いない。ついには、社長が個人的に自分の中で一番盛り上がっていた「スピリチュアル的性」を雑誌の特集にするつもりでいたところを、間接的にナータから警告され、余計に反発し根岸社長は意固地になって予定通り強行出版したと思われる。


 根岸社長がSNSでよく訴えていたのは、当時、世界のあちらこちらで起こっていた自然災害に対する怒りだった。災害が起こる度に、敏感で感情的になっていた。まるで、自然や神を責めるかのような表現の仕方だった。

 ところが、渚沙がSNSを初めてから、例のナータの「日本の自然災害の原因は聖人になりたがる人々の罪が理由」というショートメッセージを発信し始め、スピリチュアル系の人たちの愚行を繰り返し指摘するようになると、根岸社長は他国で大きな自然災害が起こっても一切コメントしなくなった。

 渚沙は、スピリチュアル系狂者の生産元である書籍の有害さに関しても何度も言及していたし、根岸社長は、自分自身が日本の災害の原因を生み出している人間の一人かもしれない、と幾らか認識したのだろうか。


 渚沙は、仕事用にナータの奉仕団体や日本向けの複数のサイトを維持していた。ナータにはそれらのサイトの詳細について、どんなサイトなのか話したことは今の今まで一度もない。独特な特徴を持つSNSには、フォローする、されるなどの機能があるが、もちろん説明したことはなかった。だが、渚沙が独断でSNSのみを使って警告することを、ナータは承知していたのだろう。フォロワーの中に根岸社長がいることも知っていたはずだ。


 渚沙は震災後、執筆のために「トライアングラー」で性特集を組んだ号の発行部数を調べたことがある。サイト上に公表されていた出版部数は毎号違った。以前は、十万部ほど出していたが年々減少傾向にあった。勘違いスピリチュアル信奉者が減ったと考えられ喜ばしいことだが、それでもまだ「スピリチュアル的性」特集を組んだ号の発行部数は七万部以上で、相当数の人を洗脳し悪影響を与えたはずだ。今後、スピリチュアル的性交にふける好色な人が急増することが予測できる。スペインのカウンセラー、セレナが連れて来た男のように性交におぼれ、悪霊に憑依され廃人となる者が出てくるのだろうか?


――かつて犯罪事件を起こした多くのカルト団体では、性が乱用されていた。

 ナータが渚沙を通して、日本に、特に雑誌を媒介に大衆に影響を与えることの可能な根岸社長に、誤った悪質な性の思想を「スピリチュアル」として人気雑誌に取り上げてはならないと伝えたかったことは間違いないだろう。

 だが、少なくとも根岸社長に関しては、ナータの貴重な警告は無視され、渚沙の働きも徒労に終わった。

 

 震災後に気にかかって調べものをしていた時のこと。沖縄を中心に活躍する日本人の女性「性教師」が、国内外で「スピリチュアル的性交セミナー」で大儲けしていることを知った。その女は、一部の自己報告による情報から単純計算すると、少なくとも十億円近く稼いでいる。この女の元から二千人以上の「性教師」等のスピリチュアル系指導者が誕生したそうだ。この女こそ「悪魔の使い」そのものであり、「歩く公害」ではないか。

 今の日本には、悪魔の使者たちが自由に歩き回り、性で誘惑して仲間を増やそうしているみたいだ。以前は、スピリチュアルはであると思っていた。しかし、ここまでスピリチュアルを乱用するならば、といえそうだ……。


 近年、米国では、性的スピリチュアル・セミナーで乱交が行われ、十六歳の少女が六十歳の既婚者の子を妊娠した。六十歳の男は離婚し、この少女と結婚したという気色悪いニュースがあった。好色なスピリチュアル系たちを野放しにしておくなら、日本でも、同じような問題が起こるかもしれない。スピリチュアル系「性教師」は、モラルに背き、社会秩序を著しく乱す一種の性犯罪者だと渚沙は感じた。

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