第45話 霊感女たちの借金

 かんが当たる、直感、デジャビュなら生きているうちに誰もが何度か経験するだろう。不思議でも特別でもない。

 しかし、たまたま直感や勘がいくらか当たったくらいで「霊感がある」と公言したり、商売をしたりするスピリチュアル系の人たちのことはいただけない。だいたいそういう人の霊感は肝心な時に役に立っておらず、ただの妄想か場合によっては嘘なのではないかと渚沙は思ってしまう。

 たとえば、フミに騙された霊感のあるいう妹美容師。フミたちとは付き合っていけない、といった警告、お知らせみたいなメッセージは受け取れなかったのだろうか。ナータのところに来る方法は他にもあるのに。


 後日、フミのグループと少しの間付き合いがあった牧田聖子まきたせいこという若い女性から連絡があり、妹美容師のその後について聞かされた。聖子は妹美容師の友達なのだ。

 聖子の話によると、美容師の彼女は、自分の親戚が次々にがんおかされ亡くなっていくので、二人の生き神に不信感を抱き、シャンタムとナータとは決別したらしい。


「つまり、自分の親戚が癌で死ぬのは神のせいってこと? 幸不幸はすべて自己責任よ。人って、いいことがあると自画自賛するのに、嫌なことは他人とか神のせいにするんだよね。勝手だわ」渚沙は少し苛立いらだった。

 霊感云々という人は、なまじ神のことを信じているので、嫌なことがあると神に責任を押し付け、自分に非があるとは考えない傾向にある。


「ほんと、そうだよね。あの子とはずっとLINEで繋がってたんだけど。――私、彼女に十万円貸したの。それ以来、いくら連絡しても電話には出ないし、LINEも無反応なままでさ。お金返してっていうつもりじゃないのに」 

「なんかそれは酷い! そのままぼったくるつもりなのかな」

 妹美容師は、ばちが当たるとは思わないのだろうか。全額そろえて返せなくても、正直にちゃんと事情を説明して千円でも二千円でも少しずつ返金する方法もあるではないか。


 渚沙が美容師の彼女と話した時は善良な人に思えた。後に聖子から渚沙のメールアドレスを聞いたらしく、メールでもやりとりしたこともあるが、彼女は非常識な人では決してなかった。それなのに……。

 フミもそうだけれど、霊感とか、スピリチュアルとかいっている割に、因果応報については無知らしい。他のものは大概信じないが、渚沙にとって因果応報は真実であり、罪を犯すことを恐れているので、美容師の気持ちが理解できなかった。

 

 ちなみに、聖子にも霊感があるそうだ。彼女の場合はその力を嫌がっており、頻繁に幽霊が見え、取りかれて困っていると渚沙に打ち明けてくる。渚沙は、自分がそういったことに無縁なのを非常に感謝している。

 それで一応、美容師の霊感についてコメントすることは避けた。


「そういえば、聖子ちゃんもフミさんからお金借りてるっていってたよね。返してないんでしょ?」

 もう何年も前に聖子から聞いた話だ。金額は二十万円で、確かトラタ共和国への旅費だった。

「うん……」

「フミさんたちに連絡取るのは嫌かもしれないけど、絶対に返したほうがいいよ。できるだけ早く。フミさんは嘘をいたり、なんかやって人を騙したりしてるから、相当重い罪を背負ってるはず。そんな人から借りたものを返さなかったら、罪を共有することになっちゃうよ。フミさんみたいな人には絶対借りを作らないほうがいいよ」

「そうだよね。わかってる。今度電話してみる」

 聖子が本当にフミからの借金の怖さをわかっているかは怪しい。このまま踏み倒しそうな気配だ。


 フミは小金持ちで、意外にお金に関して寛大なところがある。残念なことに援助の仕方がずれており、渚沙が知っているいくつかのケースではひとつも人のためになっていない。むしろ人を駄目にしている。

 小室比呂子の二千万円横領事件もフミがお金で解決したらしく、法的な罰を受けていないせいだろう、小室比呂子は飄々ひょうひょうとしており、フミにいわれるままに悪事を重ねている。単に甘やかしてしまって、反省する好機を奪っただけにしか思えない。

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