第46話 男好きな霊感ホステス その1

 牧田聖子まきたせいこは、渚沙より二つ年上だ。見た目は、AKB48の類のタレントグループの中にいそうな子である。北陸出身の彼女は、化粧もほとんどしないのに色白で少し幼さのある綺麗な顔立ちをしている。ストレートのロングヘアーが似合い、中肉中背で胸がやたらと大きく目立つ。

 聖子は職業専門学校を卒業すると、地元の飲み屋やバーで働きホステスをやってきた。まだ若いし他の職もいろいろあるのに、収入がいいという理由で水商売に徹してきた。


 聖子は、フミのグループと一緒にナータのところにやって来たが、フミの弟子ではない。ナータに会いたくて同伴しただけだ。美容師の姉妹ともフミつながりで知り合ったのだ。

 最初は、悩み事の相談相手を探していてフミに行き着いたらしい。霊に憑依ひょういされて困っていたからだ。

 しかし、フミがであることはすぐにわかり、聖子はフミのことをえらく蔑視べっししていた。美容師の二人と同じく、不愉快な集団説教を食らったのだ。だが、彼女は見かけによらず、負けん気が強いので絶対に泣いたりしない。弟子たちが簡単に信じてしまうフミの噓にも騙されない。聖子は、渚沙の前でフミのことを馬鹿にし、悪口を並べた。


 聖子はシャンタムのことが大好きで、ナータのことも同じ生き神だと感じているという。「シャンタムは私の彼氏」などと聖子がいっているのを聞いて、渚沙は「いや、シャンタムは私の彼氏で夫なんだから。ナータもだけど」と心の中で小さく訴える。我ながら欲張りだなと思いながら……。

 それでも、聖子はいつも人間の男たちのほうが好きでたまらないらしく、呆れたことに、恋の悩みのある時にだけシャンタムやナータを頼りトラタ共和国にやって来るのだ。

 

 ある時、聖子は悪質な金融業者に借金をして、シャンタムに会いに行った。もちろん、男のことで悩んでいたからだ。その後が大変だった。利子が馬鹿高く返せる額ではなくなって、風俗店で働くことを強要された。 

「嫌なお客がいたの。絶対許せない。殺したいって思った」聖子は視線を落とした。

 渚沙は、そのお客に何をされたのかはとても聞けなかったが、ちょっと想像してしまった。拷問ごうもんのようなS気味な…… ? だが、処女の渚沙には想像するにも限界がある。

 借金は恐ろしい。聖子の話を聞いて、いくら悪質でなくても金融業者から借金はしたくないと思った。渚沙はクレジットカードさえつくるのを拒んできたのだ。やっと最近、口座残高の範囲で使えるデビットカードは持つようになったけれど。

 

 聖子は、モテ男ばかりを好きになるという。女に不自由しないイケメンばかりだ。相手は医大生だったり、店に来るお客だったりする。男のほうは、体目当てで聖子に付き合う。聖子のほうも十分承知しているが、好きなので求められるままに体を許す。

 そして主に、他にも女がいることがわかっているから苦しむ。そんなモテ男を自分だけのものにするのは期待できないし、不幸になることくらい経験からも痛感しているはずなのに、長年同じことを繰り返している。

 もしかして聖子はMなのだろうか? 悲劇のヒロインを実世界で演じたがる心理というやつか?


「渚沙ちゃん、私、今ちょっと辛くって……。そっちに行ってもいいかなあ」

「まさか、また男のことでナータに会いに来るっていうの?」

「うん。だって苦しいんだもん」

 たまに聖子が電話やメールで連絡してくるといつもこれだ。渚沙には誰かに「ナータのところに来てはいけない」といえる権利は与えられていない。本当は、俗世界の悩みを解決するために生き神は地球に来てるわけではないと聖子にいいたいけれど、なんとなくいえない。

 男のことはともかく、聖子の鹿がいくらか治るなら来る価値はあるかもしれない。渚沙は、賛成も反対もせず、自分が来たいなら来ればいいと伝えるが、同国人が低俗な目的でやって来ることを恥ずかしく思っているのだ。


 利己的に、自分の超世俗的な願いのためだけに生きている者に、ナータは厳しい。そういう人は聖者たちから百パーセント無視されると思っていい。シャンタムも同じだ。シャンタムは、「私に無視されることは祝福である」といっている。生き神に無視されることは相当きついので、十中八九の人が、自分の姿勢を正そうと努力するので得心とくしんがいく。聖子も無視される口だった。

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