第35話 姿と役割とエネルギーの違い

 じつは、シャンタムとナータは違う役割を持っていることをそれぞれが認めている。シャンタムは父親、ナータは母親の役割を主に担っている。シャンタムはたいてい厳しい顔をしているし、ナータは笑顔が多く、時に女性のようにしか見えないことがあるのでなるほどと思う。逆に写真のシャンタムが母性の雰囲気をかもし出しているものもあるにはあるが、非常に少ない。


 さらに面白いことに、同じ神でありながらエネルギーとを比較すると、若いナータの方が上だそうだ。ナータは全宇宙を想像したであり、であるとシャンタム共々認めている。何故、「光」なのかというと、元来、神はであり姿を持たない。男でも女でも中性でもない。その神を言葉で完全に説明することは不可能だが、あえて表現しようとすると『白い光』が最も近いらしい。しかし、全能なので姿を持とうと思えば持てる。姿を持つ利点は、人々に教えやすく、無形であるより愛着を持てるからだそうだ。

 シャンタムは、最古の女神が想像したのうちの一人だという。困ったことがあると、三大神は母である最古の女神に相談するので、彼女がいかに強大かわかる。

 三大神とは創造主、維持神、破壊神を指す。創造主は長老タイプ、維持神はモテモテ美形な王子さまタイプ、破壊神は硬派な一匹オオカミタイプといえる。日本の俳優なら、創造主は森繁久彌もりしげひさや、維持神は長七郎江戸日記のキャラの里見浩太朗、破壊神は子連れ狼のキャラの萬屋錦之介よろずやきんのすけしかいない――と渚沙は勝手にキャスティングしている。里見浩太朗以外は亡くなっているので残念だ。


 シャンタムは破壊神の生まれ変わりだという。破壊神というとただ怖いイメージがあるが、この世の物事の変化の過程である最終段階の破壊、さらに再生を担当している。神話では、破壊神の怒りに触れると灰にされたり、首を切られたりすることが稀にあるが、後で生き返らせてくれ反省の機会を与える。基本的に普段は平和でおとなしく、慈悲深い吉兆の神として、現代でも多くの人々に愛されている。


「破壊神は本当に存在したのですか? 」ある日、渚沙が長年疑問に思っていたことを尋ねた。トラタ共和国では人気の高い神さまだし、渚沙も大好きなのだ。

「その通りだよ。とはいっても、大昔のことだが」

 ナータの答えを聞いて渚沙は嬉しくなった。

 渚沙はトラタ共和国に来たばかりの頃、神話を読み漁っていた。漫画も読んだし、ナータの側近の子供たちが小学生の頃、テレビでいくつかの神話の実写版の連続ドラマをよく一緒に見させてもらった。子供だけではなく、大人たちも強い関心を持って楽しんで見ている。意外にも人間的な神々の言動、やり取りが非常に面白い。そして神さまたちはやっぱりかっこいい。男性神だと恋人や夫にしたいくらいだ。女神だと美しく強い。強すぎるので男性たちは妻にしたいとは思わないかもしれない。


 トラタ共和国の神話のドラマに出ている神さまの中には、はまり役で本当に神さまなのではないかと思えるほど人間らしくなく、高貴で力強い演技をする俳優や女優が数人いる。子供時代の神を天才的に演じる子役もいる。いくつかの実写版が素晴らしい出来なので、是非日本でも放送して欲しいと願ったが、トラタ共和国では神話のテレビ番組や映画は政府の許可があって放映されているくらい厳重に管理されているので難しいらしい。トラタ共和国には三千万種以上の神がまつられている。人々は、それらすべてがひとつの神だと解釈している。日本の八百万やおよろずの神のようで、日本人には理解されやすいと思うのに残念だ。

 

 以前は、神はサンタクロースと変わらない架空の存在だと思っていた渚沙だが、異世界に足を突っ込んでから少しばかり勉強させてもらって、こう解釈するようになった――本当はこの世には唯一神ゆいいつしんしか存在しない。唯一神は、たくさんの役割を異なる姿で果たすことに決め、それに伴い自分の分身を必要な数だけ創造する。役割によって必要なエネルギーの質と分量は違うが、もとは同じ神である――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る