第1章 男嫌いの恋愛戦
第1話 超限定的好み
「
大人になって久々に会った中学時代の友達がそういう。そんな少女の頃から公言していた覚えはない。ついでに小学校、高校、短大、どの時代の友達も、渚沙の男嫌いを忘れていなかった。
だからといって渚沙は同性愛者ではないし、好きな人がいなかったわけでもない。
祖父がよく見ていたテレビの影響で、子供の頃から、時代劇に出てくる主役級の美形な俳優が好きだった。長七郎江戸日記や
役柄の影響が強く、同じような人がいれば是非結婚したいと思うが……。それはハリウッド映画のスーパーマンやバットマンと結婚したいといっているのと同じに違いない。
日常生活では、男性には目がいかない。芸術作品の感覚できれいな女性を見るのが渚沙は好きだ。芸術作品なので、恋愛感情も嫉妬心も湧かない。彼女らの美しさを賞賛し、失礼なくらい見入ってしまう。反対にあまりきれいに見えない女性のことも観察する。もう少しこうすればすごく素敵で魅力的になれるのに、とメイクアップアーチストかスタイリストの気分で残念がる。見知らぬ人を妄想で変身させるのは、帰国すると今でも電車の中で必ずやっている。
渚沙は、美に関してなかなかうるさい。
渚沙が通っていた
ミス・カンナは、けっこう地味な女子生徒だった。話したことはないが、名前と顔は知っていた。顔は、福山雅治に雰囲気がよく似ていたが、女性だからなのか全然美しく見えず、可愛くもなかった。ただ、性格がいいそうだ。たしかに性格も大事だろう。しかし、それなら二年の時に同じクラスだった
「なんであの子がミス・カンナなの? 早希ちゃんのほうがずっといいじゃない」美にこだわりがある渚沙は、ミス・カンナが誰だったか教えてくれた旧友に強く同意を求めた。
「早希ちゃん? 誰だっけ」
そういわれて思い出した。彼女は早希と同じクラスになったことがなかったのだ。
「守谷早希ちゃんよ。すごく可愛いんだけど大人っぽい子。バンドやっていて、先輩と付き合ってた。私は二年の時に一緒のクラスだったよ」
「ああ、わかった! 守谷さんね。私、中学も同じだったよ」
「へえ、そうだったんだ」
「守屋さん、中学の時も大人っぽかったわ。たしかにミス・カンナはあの子のほうがいいかもね」
早希はやけに大人びていて、爽やかに女らしく、格好良くもあった。先輩たちとバンドを組んでいたからかもしれない。柑奈高校のカップルはほとんど同学年同士だが、早希は先輩と交際していたのでさらに早熟な印象を与えていた。早希は同じクラスで、バンド仲間である女の子といつも一緒にいた。二人して、二学年くらい上の人の雰囲気があり、同学年のみんなとはなんとなく距離を置いていた。だからといって気取ることはなく、話をすると二人とも気さくな人柄であることがわかる。早希はお姉さんのように渚沙に優しかった。渚沙は天然なところもあるが、ユーモアのある家庭で育ったため、わざとボケてみたりする。この子は子供みたいで面白いなと思っていたようで、渚沙のことを呼び捨てにし、クスクス笑いながら可愛がってくれた。早希はミス・カンナの候補にさえ挙がらなかっただろう。みんなのほうが早希から相手にされていなかったのだ。
一方、ミスター・カンナは、小学校の同級生で渚沙と高校までずっと同じだった男子だ。天然の茶髪で肌は白く、
その元ミスター・カンナだが、三十代になり、小中高、それぞれの同窓会で再会した人たちによると、彼の容姿は別人のように崩壊していたらしい。女子がみんな揃ってショックを受けたそうだ。彼のことを特に好きではなかった子たちまで、興奮しながら
さて、こんな『ミスターなんとか』に選ばれてしまうモテ男は、間違いなく渚沙の苦手な部類だ。自分が好きではないのに自分に好意を持つ男。外見が良くて格好つける男。尻軽男。そういうのがどうしてもだめで、けっこう周囲に多いから余計男嫌いになる。本当にただの友達でいてくれる男性だと、安心して一緒に居られるから楽しい。その証拠に、すでに何人かいるが、ゲイは大好きで友達として大歓迎である。
つまり、渚沙は完全な男嫌いではなく、正確に表現しようとするとなかなか複雑な女子だった。
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