二話:恋とはかくも残酷で。

「……ここで、何してるの?」


 突如、真横から声をかけられて私の身体は跳ねる。声にならない悲鳴を上げながら、私は声のする方を向いた。


「ずっとうろうろしてたでしょ」


「……気づかれてたんだ」


「そりゃ、僕の部屋は二階だからね。家の前の様子はよくわかるんだ」


 ……忘れてた。

 彼の部屋からは、外の様子が一望できるんだった。何度も彼の部屋にはお邪魔してるのに、そんなことに気付かないぐらいには緊張していたみたい。


「本当なら、このまま警察に連絡するんだけど……」


「——客観的に見たら、ただのストーカーだよね、私」


 私の自虐に、驚いたように目を見張る彼。


「なんだ、自覚あったんだ……とりあえず、うちに入ったら?」


 さらりとひどいことを言いながら、玄関を指さす彼。


「いいの? 私は見知らぬおばさんだよ?」


「そう言いながら、ちゃっかり僕の部屋に向かってるあたり図太いよね」


 失礼な。仮にも女性に向かって、『図太い』なんて言葉は使っちゃいけないってあれだけ言ったのに。


 いや、私が悪いのは分かってるんだけどね?


「このクマのぬいぐるみ、まだピアノの上に置いてくれてるんだね」


「……? うん、同級生からからもらってね。練習中とか、疲れた時に見てなごんでるんだ」


 そう言いながら、少し照れたようにつぶやく彼。その目は愛おしそうに、『私』ではない誰かを見つめていて。


「——キミの想い人のこと、本当に大好きなんだね」


 聞かなくても分かってる。彼が馬鹿正直なほど一途だからこそ、私は彼のことを諦められないのだ。


「その子、いつもはクールなんだけど、照れると可愛くてね? そのクマのぬいぐるみをくれた子もそうなんだけど、僕の好みとかすごい真剣に考えてくれてるんだよね。しかも可愛いし、可愛いし」


「……重要だから、二回言ったの?」


 うん、とはにかみながら微笑む彼。何とか冗談で場を繋いだけど、胸は張り裂けそうに痛い。

 

 心当たりがありすぎて、心当たりしかなさ過ぎて。

 そう、彼はあの子のことが好きなんだ。


「で、お姉さんは何をしに来たの?」


「私は……これをキミに渡したくて」


 そう言いながら、私はとっておきのプレゼントを差し出す。


 綺麗に、丁寧にラッピングした、『私』からの贈り物。


「お、ピアノのストラップじゃん。僕、これ欲しかったんだよね」


 そんなこと、私が一番よく知ってるよ。


「けど、これと同じものを彼女からもらったんだよね……だから、申し訳ないんですけど、これはお返しします」


 ピアノの上に置かれた、『私』からの贈り物と同じ包装の贈り物。この部屋に入ってっ来る時から、中身なんか見なくても分かってた。


「そう……迷惑になっちゃうもんね。ごめんなさい」


 わかってた。彼は絶対に受け取らない。せっかくの恋で、しかも彼は一途なのだ。そもそもここで受け取るような男の子なら、私はこんなに苦しい思いはしていないのだから。

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