開眼

「……93、94、95………よし100。で、あとはレイチェル次第か」


意識が浮き上がる。掘り出されたあの時のように、雲の切れ間から光が降ってくるような、そんな感覚。………なんか、開けられそうな気がする。おそるおそる、ゆっくりと開けてみる。


白衣に灰色のシャツが見えた。見えた!?


『うぇっ!?』

「お、接続大丈夫みたいだな。見えてる〜?」


ひらひらと振られる手のひら下半分が見える。


『なんか近くない!?』


だってこれ、サトーだよね!?顔が見えないくらいの距離に見えるんですけど!?


「あーっと、俺が下がった方が良いのかな。このくらい?」


サトーは椅子から立ち上がって、わたしから少し離れた。……こんなだったんだ、サトー。初めて見るサトーは、頭ボサボサでメガネで眼が寝不足そうな男だった。わたしはこいつがわりかしハキハキ喋るから、もっと冴えた感じだと思ってたけど。そうでもなかった。


『………』


右に左に揺れて、手で顔を覆って、開いてなどしたりしている。見えてるかどうかのわたしのリアクション待ちなんだろうけど、………正直耐えられない。


『フフッフ……ハッハッハッハハハハハハ!』

「……え?」


だってなんかおかしいんだもん!サトーがわたしのリアクション待ちしてるのとか今まで無かったし!それに付けてもらった眼がいい品質してるのか、なんか表情がよくよく見えるんだもん!なんかもうおかしくて!それに笑い出したわたしに「なんで?」って感じなのがまた!


「………普通なら腹筋攣ってるところだろうね」


笑いが収まってきてからぼそりとサトーは言った。ジト目で。……堪えろ。堪えろわたし。なんでこうなったのか、見えるようになったか説明とか聞いといた方が気がする。サトーはそういう説明とかしっかりするタイプだし、ちょっとイラッときてる。


『どうしてこうなったのか聞かせて?』

「………ホントはさ、この前逆ギレした時にコレの話をするつもりだったんだよね」


視線を落として、声はさっきよりも小さく、低く言う。わたしは口を挟まずに聞くことにする。


「言い訳になるんだけど、あの時も徹夜でさ。よっしゃコレ見せたらぜったい驚くぞ!俺が最強だ!ってテンションだったんだよね……」


サトー的にわたしは話の腰をへし折って、さらにどうでもいい話をし始めた、と。あの時はわたしもそんな気分だったし、なんだかそっくりな状況でぶつかってたわけだ。


「それでまぁ、年甲斐もなくへそ曲げて顔も出さずにいたのは本当に悪かった。職務放棄だったよ」


職務なんだ……と言いたくなったけど、サトーがホントに申し訳なさそうなので言わずにおく。


「その代わりと言ってはなんだけど、そのカメラは最初に見せようとしてた時より性能上げたし、外出も出来なくもないので、それでどうかご勘弁」

『外出!?外出って言った!?』

「言った。まぁ許可とかはいるだろうけど、外出出来るように作ってあるから」

『さっきは冴えないとか思ってゴメン。天才。サトーは天才だよ!』

「天才!?俺天才!?」

『間違いなく天才だよ!!このレイチェルさまが保証するよ!』

「……マジ?」

『もちろんでしょ!わたしにとってはサトーこそが天才だ!』

「………」

『あれ?サトー?』

「いやちよっとアレだから。寝不足だからドライアイなんだよ……」

『ふーーん』


サトーがそう言うなら、そういうことにしておこう。わたしの眼はしっかり捉えていたけれど、そこは開発者とか天才さに免じてってことで。


『で、外出はいつ?』

「気、早くない?」

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