おや…?レイチェルのようすが…?
「では私はこれで失礼させてもらう」
コツコツコツ、バタン。
男は私から話を聞くと二つ三つ妙な質問をして部屋から出て行った。たぶん、自分の分野とか研究に関わる質問だったんだろうな。けど、さっぱり内容には検討がつかない。わたしに分からないように男がしゃべっていたのかもしれないし、ただ単にわたしの知識に引っかかるところがなかったかもしれない。
……知らない人としゃべるのって疲れるね。慣れない敬語をどうにか使ったけど、頭が疲労を訴えてる。わたしがまともに動かせるのは頭だけなのに。ベッドから一歩も動けないようなもんで、ほぼほぼ植物人間?だったっけ。そんな状態のわたしに気なんて使わせないでよねー!あーーもう愚痴りたい。愚痴りまくりたい。言いつけ破って思いっきりSNSとかそういう誰かとしゃべるの使って愚痴りたい。「マジありえなくね?」とか言ってふつうの人は笑いあってるんでしょ?いーなーいーなー誰かとしゃべりたいなぁ!
ガチャリ、と音がした。さっきの人戻ってきた。………失礼するって帰るって意味じゃなかったっけ。忘れものでもしたのかな?とりあえずさっきより聴覚上げておこう。
硬そうな靴の音ーーーはしない。気配わたしの方に近づいてくる。さっきの人が止まった位置をためらいなく越えて、そして座った。その位置には確か、調整用のパソコン。それはわたしの体調変化をみたり、わたしの聴覚と発声に使ってるマシンに繋がったりしている。キーボードを叩く音。その音はほとんど止まることなく、ある種の音楽のようにリズミカルに続く。
わたしはなんて言ったらいいのか分からない。言いたいことがないわけじゃないけど、そういうのがどわーって湧いてきて、うまく言葉にならない。なんて言ったらいいか、わからない。
「えー………っと、接続がここ、システム?あー、ロックしてたんだな」
「よし、合ってた合ってた・・・・・・あとはコイツを・・・っと」
「……いまは近距離だしブルータスでいいよな?……ってブルータスはおまえもか、だろ。ははは」
ちょっと感情がどわーってなって泣きそうだったのに台無しだった。空気読めないタイプの人間ってやつかもとは思ってたけど、ここまでできるかサトーくん。さすが人の話の腰を折って部屋を出ていくだけある。
独り言とかないわー。パソコン眺めながらブツブツ言ってるやつとか社会的にアウトでしょ。ギルティでしょ。………もしかして、わたしが寝てると勘違いしてる?だから独り言しながら作業してもどうせ気付かないからいいいよねって独り言してるの?………いやいや。それにしてもブツブツいいながらパソコンしてるのはダメでしょ。社会に出てないわたしでも社会的にやばそうってわかるよ?
………でも、それをツッコむにしてもなんて声かければいいんだろう。こんにちは?やっほー?ハイどーも?……あー、ハイどーもは通じないんだった。まさかこのケンカ期間でバーチャルユーチューバーの勉強をしてくるなんて殊勝なことを、この男がするはず無いのだ。賭けてもいい。
「工程オーバー。………………お久しゅう、ございます」
え、気付いてたの。わたしが聞いてるのわかっていながらブツブツ作業をしてたの。え。アゴが落ちるとはこのことだわ……
「ちょっと確認してほしいことがある。いま、ヘッドギアに繋がってるのは耳と喉の代替マシンの二つだと思う」
そういう作業をしてたんだ。一週間くらいこの部屋に来なかったから不具合でも出てるのかしら。………ケンカのことはいいのかな。うーんと、なんか、こう。あのときはどうゆうこと考えてて〜みたいな言い分は無い、のかな。スルー?
「以前、繋がっている感覚はちゃんとある、と言っていたよね。その空間というか、イメージというか。とにかくそこを確認してほしいんだ」
へー。スルーなんだ。わたしはちゃんとネットでいろいろ巡って仲直りのやり方とか頑張って探してたのにスルーなんだ。へーー。まぁいまは問い詰めたりしませんよ。これでもわたし、あなたよりは年上でしょうから?余裕ありますし?ケンカにはわたしにも落ち度があったことを認めてそっちの用件から片付けてあげますよ。えぇ。
まぁ、サトーが言うんだから必要なことでもあるんだろうし。
………意識を集中する。深く深く、潜っていくイメージ。潜りきった先に、脳が浮いている空間に辿り着く。その空間を泳ぐ。泳ぎ方とか知らないから泳げてるかは知らないけど。・・・・・・・・・うん。脳を眺めてみると、聴覚と発声を司るところから、銀と透明の間みたいな眩しい色の糸が外へと伸びている。それは何度も見たことある光景で、神秘的だなとは思うけど、それだけ。驚きはしない。まぁ最初は騒いだ。無我夢中のままこのイメージまで意識を持ってきたから意味不明のままだったし。自分の脳から糸が伸びてるのを見て騒がないのは逆にどうなのって気がする。
まぁそれはそれとして。
『なにあれ』
銀に光る部分が増えてる。サトーがなんかしてこうなってるんだろうけど、驚きとかよりも「えぇ……?」ってなる。どうしてパソコンをカタカタしたらわたしの感覚が増えるわけ?………最近の科学はすごいねって言えばいいの?そこら辺は今はいいや。とりあえず繋げちゃえ。
光ってるところまで泳いで、その糸を繋がるべきところに繋ぐ。そんなイメージ。よし。繋がった繋がった。……で、どうなるの?と思った瞬間、わたしを塗り潰してしまいそうな眩しい光。
『なーーーーーーー!?』
わたしの意識は光に落ちた。
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