レイチェルとメグ
『……ということがあったんだよ』
「うん、ばーちゃるなんたらはよく分かんないけど」
『!?』
な、なんだと!?推定十代のピチピチ人間のはずのメグちゃんまでもが、バーチャルユーチューバーを知らない!?知らないんだ!?若者でバカウケなんじゃないの!?あれ!?
「レイちゃん、彼氏さん居たんだね…」
『彼氏さん?』
「違うの?」
『彼氏って、夫の進化前存在だよね?わたし、そんなの居ないんだけど』
なんなら永劫いらないまである。まぁ?わたしは美少女だったろうなので引く手あまただった可能性については全く否定しないけど。いわゆる才媛ってやつ。
「え!?」
ん?なんかおかしいこと言ったかなわたし。男→仲のいい男→彼氏→夫の順で進化するんでしょ?まぁ純粋な意味での進化とは違うから、そこを揚げ足されたら降参するしかないけど、メグちゃんだしなぁ…。アホの子っていうか箱入りっていうか、そんな兆候の見えるメグちゃんだしなぁ…。
「いやいやいやいや!だったらサトーって人は何なの!?」
『ヒト科ヒト目ヒト属の人間』
「そうじゃなくて!!」
メグちゃんにもこんなに慌てることがあるんだなぁと思いながら、さてどう説明したものか。わたしことレイチェルと、話題のあの男ことサトーはどんな関係であるのか。考えてみよう。
あいつは研究員で、わたしが実験体、というのが最も事実を捉えた言い方に思えるけど、わたしの日々のサーフィンで得た知識が、ふつうの人は実験体というワードを使わないし、よしんば使うとしても、それはフランケンシュタインの怪物、みたいな。現実性が著しく低い使い方だ。よって却下。
夫系列はそもそもナシ。あいつを「あなた(はぁと)」なんて呼ぶことになると思うと背筋が凍ってしまいそう。無いけど。
友達、というにはちょっと、対等な関係じゃないし。そもそも定義がよくわからん。メグちゃんとはよく電話するから親友だけど。
よって、こう答えることにした。
『メグちゃんのご想像におまかせするよ』
「へー、へぇ〜。そんなこと言うんだ?」
おっと、なんかメグちゃんの声色が変わった。なんか言ってやろうみたいな雰囲気をバシバシ感じる。
「で、レイちゃんは愛しのサトーくんとケンカして困ってたわけだ?」
『・・・・・・まぁ、そうだね』
「これはあたしの勘だけど、レイちゃんはあまりケンカをしたことがない!!そうでしょ?」
『そうとも言える、かな』
「だから人間関係が豊富そうなあたしに声をかけた。どうか助けてほしい、って!」
『・・・・・・うん。まぁ経緯としてはそれで違いないよ』
「しかーしっ!!」
『しかし?』
「あたしも、誰かとケンカしたこと無かったのだ!!」
『はぁ!?マジ!?』
「マジマジ。あたし兄弟とかいないし。ケンカする相手は……いなくはなかったけど、ケンカにはまるでならなかった!なのでまったく役に立ちません!」
『え〜………』
メグちゃんは自分の言ったことが笑いのつぼに刺さったらしく、高笑いみたいに爆笑してる。あまりに楽しそう過ぎてイラッとくる。呪ってやろうかと思った。果たして真名でなく呼び名だけでどこまで呪えるか実験してみたくなった。……なっただけだよ?やらないやらない。
過呼吸の手前まで笑ったらしく、ハァハァ言っている役立たずメグちゃんから問いが投げられる。
「はぁ……そいえばレイちゃん、シュガーのハートフル相談室って知ってる?」
『何そのネーミングセンスぼろっぼろな相談室?』
「なんか、常連さんの話によると、相談を投稿すると相談に乗ってくれるサイトなんだって」
なんか怪しいな、とは思ったけれどメグちゃんの手前、言わずにおく。
「で、相談に乗ってくれる人がとってもすごいんだって。長年の悩みがたちどころにきれいさっぱり無くなったんだって」
『へー』
ますます怪しい・・・そんな簡単に悩みって消える?単なる相談じゃなくて、何らかのこっち側の技術が使われてるような気がしてならない。
「あたしも、サイトじゃなかったら行くことになってたかもなんだけど、サイトだからねー」
いまいち掴みきれないけど、たぶんバイトの話だろう。メグちゃんは偶に、ホントにたまーにだけど自分のバイトの話を零す。
『あれ?メグちゃんそういうの嫌いじゃなかったっけ?』
「あ〜、占いとかそのものが嫌いなんじゃなくて、占いで一日の運勢とかこれからの人生が左右されてる感じが、あたしはイヤだなーって」
『……なんかメグちゃん、強い女だね』
「おっ、レイちゃんには分かっちゃう?あたしの強さ!」
『わかるわかる。囲まれてもカンフーで切り抜けそう』
「無いから」
『え?』
「功夫は無い。だからカンフーで切り抜けるのはムリ」
『え、あ、うん………』
急にメグちゃんの声から冷たくなる。おそらく地雷踏んだんだろうけど、メグちゃんと喋ってるとたまにある。
メグちゃんはいったい何者なんだ、と思わなくもない。けれど、それを聞いたら何かが壊れちゃいそうな気がして、聞けずに、聞かずにいる。
「ってごめん!またやっちゃった!」
『いいっていいって。誰にでもそういうのあるって』
「あ!そろそろバイトの時間だ!じゃね」
『はーい。じゃあね〜』
電話が切れる。・・・そういえば勢いでそういうことになってたけど、わたしはサトーとケンカしてたのか・・・?あのときは頭に血が上ってたからなぁ。ちょっと客観的な情報がほしい。
あ、そういえばログってあるんだっけ。研究の一巻で記録とってるって言ってたし。それをあいつに持ってくるよう頼めばいいのか!さすがわたし天才。埋もれてるのは惜しい才能で才媛だったんだなー!
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