レイチェルとサトー

亀馬つむり

レイチェルとサトー

『バーチャルユーチューバーになりたいんだけど』

「…………」

よく聞こえてなかったのかな?

『だから、バーチャルユーチューバーになりたいんだけど』

「バーチャル………なんて?」

イントネーションが違ったのか、どうも後半が聞こえてなかったみたい。ゆっくり言おう。

『わたし、バーチャル、ユーチューバーになりたいの!!』

「………なんだそれ」

『え?』

「バーチャルは……仮想の、とかそういう意味だよな。で、ユーチューバー?………er系ってことは職業、だよな……?」

『え、もしかして、知らない……の?』

「バーチャルユーチューバー?流行ってんのか?」

『ありえない……マジありえない!!流行ってるなんてどころじゃないでしょ!?』

「こっちのセリフだよ……言語ミーム伝染早すぎるでしょ……いや、マジとかありえないはそこまでミーム的な単語でもない……?」

『なんで知らないわけ!?今年はバーチャルユーチューバーが最もフィーバーしてる年じゃん!!』

「はいはい流行に疎くてすいませんね。でさぁ………やっとこさ完成に漕ぎ着けてさぁ」

『でさぁ!?でさぁって言ったいま!?話流そうとした!?』

「いやだってそんな事より」『そんな事より!?はぁぁぁぁぁぁ!?』

「ちょっハウってるハウってる、てかこんなに音量出るのかよ」

『あんたさ、人が自分の夢の話してんのにそれを聞かずに話しようとしたよね!?』


「夢?………夢!?」


『そうですよ!?夢ですけど何か?』「というかそもそも眠れるんだ!?」『は!?なに、わたしは眠ったりしたらダメってわけ!?』「言ってない言ってない。ただ研究が捗るなーって」『研究!?あんた、研究って言った!?』「言ったけど……えっなんで怒ってんの」『怒ってませんけど?』「怒ってんじゃん」『これは正当な抗議です〜!!』


「うわぁ」


『いまめんどくさいって思ったでしょ』「…………別に」

『いまの間!思ったんだ?思ったんでしょ?』「……あぁ思ったよ!なんでここまで生意気になっちゃったかなぁってさ!最初のころのしおらしさはどこいったかなーって!」


ブチリ、と何かが切れる音がした。あー、これ『頭の血管が切れそうになる』ってやつね。完全に理解した。けど、逆にクールに攻めようと思った。


『へぇ、わたしにしおらしさとか求めてたんだ?』

「いや全く」

『は?』

「しおらしさって……求めるもんじゃないし」『じゃあなんなのよしおらしさって』

「え、なんか……謙虚っていうか、ちゃんと………そうだよ。感謝があるんだ。やってもらったことにはこれでもかってほど、さ」


言い切って、彼は長いため息をこれみよがしに吐いた。珍しいわねそんな事するなんて。


「不毛だよ不毛。マジやってらんねーわ。完全に専門外だっつーの。………良かったな、これからはへっぽこじゃなくてもっと腕のある研究員に付いて貰えるだろうよ」


『え?』


「じゃあな」



バタン、と扉の閉じる音がした。え、なにこれ。わたしはバーチャルユーチューバーになりたい!って話をしようとして…………。何?いったい何が起こったの?………えーと、なんだっけ。なんか分からないことがあったら使うやつ、使うやつがあったはずよね。「この50万には戻れません」とかって言うやつ。なんだっけ、あの司会者がめっちゃ顔で煽ってくる感じのアレ!


そうだ!


メグちゃんに。わたしのマイベストフレンドのメグちゃんに聞こう。きっとメグちゃんなら知ってるはず。

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