報告せよ! 状況を報告せよッ!!!

ちびまるフォイ

こちら、極めて絶望的な状況です

「応答せよ。応答せよ」


かぼそい無線が聞こえてきた。


「こちら、第13部隊 直属護衛チーム所属、サリーボ」


「聞こえるか? 応答どうぞ」


「こちらサリーボ、無線が聞こえる……。どうぞ」


「そちらの状況を報告せよ」


「……絶望的な状況だ……もう助かりそうもない……」


無線から帰ってくる声は、すでに諦めを感じさせるトーンだった。


「諦めるな! 詳しい状況を!」


「周りがすべて敵に囲まれている……。

 俺も逃げた時に被弾してしまったらしい……。

 このままじゃ長くはもたないだろう……以上、通信を終了する」


「待て! もっと詳しい状況を!」


「言っただろう……。もうこの先、助かりようがない……。

 これ以上の通信に何の意味があるというんだ……」


「お前が死んだとしても、お前の提供した情報はほかの部隊にも共有される。

 そして、きっと役に立つはずだ。我々にも!」


「そうなのか……」


「ああ、間違いない! だから詳しい状況を報告せよ!」


「待て。敵がきた。いったん通信を終了する」



――プッ。


無線が途絶えた。


それからしばらくして、今度は向こう側から無線がかかってきた。


「応答せよ。こちら13部隊サリーボ」


「聞こえている。そちらの状況を報告せよ。できるだけ詳細に」


「こちら13部隊、敵と打ち解けることに成功した」


「はっ!?」


「敵の部隊に自分の女装癖を暴露したところ、

 共通の趣味の人が多くて一気に仲良くなれて打ち解けた、どうぞ」


「よくやった。敵のふところに入り込んだというわけだな。

 もっと敵の詳しい情報を報告せよ」


「敵は3人家族で、最近長男が生まれたらしい。

 共働きで家をあけがちだが休日にはよく公園に出かけている、どうぞ」


「そういうのじゃなくて! もっと有益な情報を!」


「まずい。敵がきた。通信を終了するっ」



――プッ。


無線が途絶えた。



またしばらくして通信が入った。


「13部隊だ。応答せよ」


「聞こえるぞ。そちらの状況をすぐに報告せよ。こちらは緊迫している」


「こちら13部隊サリーボ。家族ができた」


「はい!? 詳しい状況を報告せよ!」


「敵に打ち解けた結果、新たに孤児を受け入れる

 社会福祉施設【伏魔殿】を設立した、どうぞ」


「この短時間で!?」


「そして、ひとつの目標に向かって努力する過程で

 だんだんと心惹かれる女性ができて入籍をした、どうぞ。

 また、その際に親に捨てられた子供を引き取り家族になった、どうぞ」


「お前の身の上話じゃなくて、もっと詳細な状況を報告せよ、どうぞ!」


「あ、子供を幼稚園に送る時間だ。通信を終了する」



――プッ。


無線が途絶えた。



しばらくして、最後の通信が行われた。


「こちら13部隊、一児のパパ・サリーボ、どうぞ」


「聞こえている。ただ、これからはこちらの質問にだけ答えろ。

 それ以上の情報は不要だ、どうぞ」


「了解した。最低限の通信を行うものとする、どうぞ」


「貴様は 今、どこで、なにをしているか詳しく報告しろ、どうぞ」



「今はファミレスでテレビを見ている。

 敵により制圧された自軍基地が映され、

 司令官が必死に無線で何か訴えかけている。どうぞ」




「貴様が、仕事をサボって、持ち場を離れたからだ!!

 さっさと助けにこい!! どうぞ!!」



――ガチャン。


無線はすぐに切られた。

もう二度と無線は応答しなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

報告せよ! 状況を報告せよッ!!! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ