4. 白日のまほろばは西日に消ゆ
次に記憶しているのは、村の役員だと言うオッチャンに揺さぶられて起こされた事。西日が眩しくて目をしばたたかせていると、そのオッチャンは出し抜けに「おーい!見つけたぞーー!!」と大声で叫んだ。するとあちこちからワラワラと人が集まってきて、良かった良かったと大騒ぎになった。その人垣を掻き分けて母が現れるや、私は飛びつかれるようにして抱きかかえられてしまった。母は激しく泣いていた。
後で分かった話だが、私は神社に遊びに出たっきり3日間も帰って来なかったらしい。夕方になっても戻らないのを親が心配して捜索願が出され、それから村の人たちも交代で私を探してくれていたそうだ。父は、一人一人に頭を下げて丁寧にお礼を言って回っていた。何やら大変な騒ぎになってしまった。
3日ぶりに家に帰った私は、案の定こっぴどく叱られた。でも鳥居の奥に引き込まれた話や女の子の話をすると、母と祖母の様子が少し変わった。
私の遭遇した神隠し(後日、私の失踪事件は「神隠し」と呼ばれるようになった)では、大人たちが首を傾げるような点が幾つもあった。
まず、そもそもあんな場所に鳥居は存在しないという点。これは地元の人達の共通認識で、実際あとで確かめに行ってみたけれど、確かに境内の奥に鳥居などなかった。鳥居は、境内からもっと杜に入ったところにある小さな祠の入り口にあるのだ。
また、その祠につながる道はふだん柵がしてあるし、鳥居も注連縄で結界が張ってあって、子どもが入り込める筈は無いという点。誰も子どもが鳥居の先へ踏み入ることなど本気で想定していなかったからこそ、大人たちは神社への出入りを禁止しなかったのだ。でも私が見た鳥居は注連縄など渡されていなかったし、入ろうと思えば誰だって入れるような場所にあった。祠などというものも無かった。
大人たちが出した結論は、「あーちゃんは神様のお庭に招待されたのではないか?」というもの。祖母によると、あの神社の神様には娘がいたのだけれど、生まれつき体が弱くてあまり遊べず、友達もいなかったらしい。その娘が祀られているのが奥の祠とのことだった。
「お淋しい縁起の神様だから、あーちゃんと遊びたかったのかも知れないねぇ。」
ばーちゃんはそんなことを言って目を細めていた。
あの夏以来、毎年母の実家に帰省すると、あの神社にお参りに行くようになった。お賽銭を投げて手を合わせる時、「娘様によろしくお伝えください」と心の中で母神様に話かける。それから、ビー玉、おはじき、お手玉などの玩具を納めてもいる。翌日訪れると納めた玩具がどこかに消えているのは、母神様が娘さんに渡してくれているからだと思うようにしているけれど、実際のところはどうなのだろう?
会えるものなら、またあの女の子に会ってみたい。今度は拗ねたりせずに色々なことをして一緒に遊びたい。隠れんぼだけじゃなくて、お手玉とかビー玉遊びとかおはじきとか、色々なことをして。
【背景シナリオ】白日のまほろばは西日に消ゆ 一譲 計 @HakaruIchijo
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