2. かくして神隠しは起こりぬ
その時はあまり気に留めていなかったのだけれど、改めて境内の奥手を見やると確かに、根元に苔の生えた小さめの鳥居が、木々に隠されるようにして立っているのが見えた。
「鳥居って、あれのことかな…?」
近くまで行ってみると、鳥居の先には小径が続いている。奥は木々の影が濃かったけれども、杜林特有の瑞々しい風が誘うように流れ込んでいて、木漏れ日の光が落ち葉の積もった地面にゆらゆらと揺れているのが見えた。
その様子が幻想的で見入っていると、ふと視界の端に人の足のようなものを捉えたような気がした。それに、鳥居の奥から誰かに見られているような感じもする。
「誰?」
声に出して呼びかけてみると、ちりん…と鈴の音が返って来た。音のした方を見ると、着物姿の女の子がこちらをじっと見つめていた。
歳は、当時の私と同じくらいだと思う。おかっぱ頭で色白。見つめられると息が苦しくなるような、怖くなるような、吸い込まれそうな目。そして髪の色は輝くような銀色。今思えば、何やら私の知っている「子ども」とは違うところがいくらでも思いつくのだけれど、当時の私はそんな事に気を遣うような子ではなかった。
「どうしたの?そこは入っちゃダメだってばーちゃんが言ってたのよ?」
そんな事を言いながらだった気がする。
「ダメだとは言われてるけど、あの子に注意する為だから仕方ないだろう。」
そんな事を考えていたかも知れない。
私は鳥居の中にワザと1歩踏み込んで女の子に近づきつつ「ココじゃなくてあっちに行こう?」と、後ろを指差しながら振り返ったのだけれど…。
何と言ったら良いか、どうしてこの様なことになったのか。疑問を差し挟む余地は山のようにあるけれど、とにかく肩越しに見える鳥居がとても遠かったのだ。「遠い」と言っても並の遠さではなく、鬱蒼とした杜の緑の奥の奥のそのまた奥に、神社の境内で浴びていた夏の日射し、それから空の青。その手前に、逆光に浮かんだ鳥居の影が、黒く小さく見え隠れしているような感じ。たった1歩、片足だけしか踏み込んだ覚えは無いのに。
「ちりん…」という音がして、そのおかっぱの女の子が更に奥へと離れて行く。
ここで置いて行かれては敵わない。ぜんっぜん見ず知らずの子だったけれど、あの状況に遭遇したら誰だって同じ事をすると思う。私は後をついて行くしか無かった。
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