【背景シナリオ】白日のまほろばは西日に消ゆ

一譲 計

1. 鳥居の奥へは進むべからず

昔、母親の実家の近くに古びた神社があった。

私が小学生くらいの頃、夏休みに帰省するのがちょうどその神社で夏祭りが催される時期と重なっていたのだけど、規模はそれほど大きいものではなく、地元のこじんまりとしたお祭りといった趣だった。当然、神社への参拝客もそれほど多くなくて、多少賑わうのはそのお祭りと初詣の時期くらい。神主も常駐していない。

その神社はこんもりとした杜に囲まれていて、境内は真夏でも木に覆われているので日陰も多く、涼しかった。だから近所の子ども達はよく境内で遊んでいたみたい。

私は母の地元に友達など居なかったので、少し奥まった杜の影から、楽しそうに遊ぶ地元の子ども達を眺めたりしていた。

そんなある日、地元の子らの話が聞こえてきた。耳を傾けていると、どうやらこういう事らしい。

「おばあちゃんに『神社の杜の奥にある鳥居から奥へ入ってはいけない。あそこは神様のお庭だから。』って言われたんだー。」「あ、私も知ってるー。お母さんが言ってた。」「俺もとーちゃんから聞いた。」…

私は地元の人間ではなかったけれど、その話なら祖母から聞いた事があった。

確か…遊びに行こうと玄関で靴を履いている時、祖母に「あーちゃん遊びに行くのかね。何処へ行くんだい?」とニコニコしながら尋ねられたのだ。

私は少し考えたあと、「うんとね、あそこのボロっちい神社に行ってみるんだー♪」と答えると、祖母は少し真剣な口調で「そうかね。あの神社には奥に杜があるけれど、鳥居から先に入ってはいけないよ。」と言って、それから「近所の子ども達もよくあそこで遊んでるから、もしかするとお友達が出来るかも知れないね。気をつけてお行き。」と送り出してくれたのだ。

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