1-13
「あいたたた……」
スタッフ全員の期待を一心に背負い、夢と希望が詰まったくす玉から現れたのは、なーんと金髪の女の子でした。
俺はとりあえず、大きな魔女帽子を被った女子を手招きした。
「……ラクアー、召喚要件再確認」
「はいっす。求める職業はシナリオライター。条件としては勤続年数5年以上、可能ならば10年以上の……」
そこでラクアの言葉は詰まってしまった。もう一度、落ちてきた少女をまじまじと眺める。
「たぶん……私よりも……ラクアさんよりも小さい?」
「見た目年齢、人間だと10歳ぐらいだな」
「……そうっすね」
高めに見積もってそれぐらいが限度だった。
リクルート召喚をされたばかりで動揺もあるのだろう。少女はぼんやりと宙を見上げるように、視線をあちらこちらに向けている。
「ちょっと……シナリオライターを召喚するんだって言ってたわよね。どう見ても違うじゃない。それとも小久保くんはあまーい小学生を喚びたくて、砂糖とか消しゴムとか用意したわけ? それなら、ランドセルも用意した方が良かったんじゃない?」
「そんなつもりは一切ねえ!」
だが、言われてみるとそう考えていたように思えてきてしまう。俺は本当に、心の奥底で金髪少女を求めていなかったと言えるのだろうか。
……いや、言えるな。言えるよ。社運を賭けたリクルート召喚で自分の好みの女の子を連れてこようなんて考えるわけがない。そもそも、俺の好みは大人の女性で、しっかりとしていて、包容力のあるタイプなんだよ。
つまり、目の前の今にもふえーって泣き出しそうな女の子は俺が求めている人材ではない。一体どうして、こんな子が来てしまったのだろうか。
「つまりこれって失敗――」
「だっ、大丈夫っすよ!」
あかりの言葉をラクアが慌てて遮る。
「失敗なんてあるわけがないっす。センパイの考えた触媒はバッチリだったっす! そこにラクアも気合いをたっぷり入れたっすからね。くす玉の色、センパイたちも見たっすよね。金色っすよ、金色! なかなかレアな召喚っすから失敗なわけは……はっ! ラクアわかったっす! この子は生まれた時からシナリオライターってことっすよ!」
そのポジティブ具合はある意味では好ましくあるが、これで本当に勤続年数10年ですなんて言われたら、俺たちの元々いた世界には吸血鬼や長齢種がいることになってしまう。そんな無茶な前提条件を満たしていない限り、目の前の少女が求めている人材に当てはまる可能性はなかった。
「ま……失敗だろうと万が一の成功だろうと、喚んでおいてこのまま放置ってわけにはいかないわよね」
あかりがしゃがみ込み、少女と目を合わせる。
「大丈夫? お話できる?」
「お、おう……」
……随分とたくましい返事が返ってきたな。あかりも面食らったのか、外向けの柔らかな笑みを浮かべていた表情に揺らぎが見える。
「なあ、ここはどこなんだ? あんたらは……」
辺りを見回し、俺たちを指さしたところで少女の動きが止まった。
「お、おい! 鏡はあるか!?」
「それならわたしが持ってるよー。はい、どうぞ」
シャルロットが小さな手鏡を差し出す。
少女は奪うような勢いで受け取り、鏡に映る自分の姿を見ると、
「どっからどう見ても金髪幼女じゃねぇか……」
そう、小さく呟いた。続けてぺたぺたと自分の身体を確かめていく。
……この反応、まさか、そういうことなのか?
俺たちの考えていた前提条件が違ったということなのだろうか。
いや、でもあかりの時はこんな反応は見せていなかった。
少女はすっと立ち上がり、未だに困惑し続けていた俺の方へと近づいてくると、
「ここって、いわゆる異世界でいいんだよな? なんか角生えてるやつとか尻尾見えてるやつとかケモミミ生えてるやつとかいるし。コスプレ会場とかじゃねえよな?」
見た目とのチグハグさとかを考えるのも馬鹿らしくなるほど、すっごくラフに問いかけてきた。シャルロットなんかはその言動に目を丸くしてしまっているが、俺自身としては納得ができている。むしろ、疑念がほぼ確信に変わったほどだった。
「そうだよ、ここは俺たちがいた世界とは違う異世界だ。フェアリーフ――精霊と魔法の広がる世界だよ」
俺の答えに少女は満足したのか、満面の笑みを浮かべると。
「うっひょー! やったやった、金髪幼女で異世界転生とか夢じゃねーのか、恋声もエフェクターも使わずに完全受肉じゃねーか! 配信やろ、ゲーム実況やろ!」
あまりにも見た目と違いすぎるそんな言葉を羅列した後で、ボソッと、
「っていうか待てよ……ものによってはこれで一本書けるネタだよな」
ようやく、そんなシナリオライターらしいことを言ったのだった。
※お試し読みは以上となります。書籍版にて続きをお楽しみ下さい。
【試し読み】誰が喚んだの!?~異世界とゲーム作りとリクルート召喚~ 執筆:木緒なち&KOMEGAMES/イラスト:宇都宮つみれ(まどそふと)/ファミ通文庫 @famitsu
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