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みんなの意見を聞きつつ、求める人材の要素が固まった。
「よし、これで出揃ったかな」
ラクアの方へ目配せする。
「じゃあ読み上げていくっすね。まず希望職種はライター。実務経験が5年以上で、可能ならば10年以上。自前企画以外でメインシナリオを担当したことがある。それでもって得意ジャンルはイチャラブ。SNSでの炎上経験なし。日産の文字数は1万字以上……ってことでいいんすよね?」
全員、うんうんとうなずいた。
ベースになっているのは俺が求めていた要素だ。そこにみんなの意見が集約され、今回のリクルート召喚で求められる人材の姿が見えてきたわけだが、
「……1つ1つ並べられるとどうにも生々しい条件ね」
あかりが思わずあきれる。
これらの条件が満たせている人材であれば、俺たちが元々いた現世でも十分活躍をしているだろう。
「よし、じゃあ次は触媒の準備だ」
召喚に必要な触媒を揃えていく。
不可欠な重要アイテムについては、すでにシャルロットにお願いして用意してもらっていた。あとは、付け足された要素に符合する触媒を考えていく作業だ。
ラクアとシャルロットが、頭をひねって考えている。
「イチャラブ……何があればいいっすかね」
「イチャラブって甘いお話よね……お店に何かあるかしら」
「精霊召喚の時は触媒との間に関係性がある方が良いって話があるっすから、リクルート召喚でもそういったものはあった方が成功率は上がるはずっす、たぶん」
「じゃあ、今から取りに行こうか。ラクアちゃんもついてきてくれる?」
「了解っす! センパイ、ちょっと行ってくるっす!」
「ラクアちゃん、お借りするねー」
「ああ。2人とも頼んだ」
今回の召喚は、基本的に専門家であるラクアに任せることになっていた。
召喚には、対象者との関係性を強化する触媒が必要になるのだが、その点においてはシャルロットの存在が非常にありがたかった。
4G屋に向かっていく2人を見送り、
「よし、俺たちは受け入れる準備をするぞ」
「……ねえ、中久保くん。受け入れ準備って何をするの?」
「前にも……ってそうか、あかりは今回が初めてだもんな」
「そういうこと。わたしは喚ばれてきた側だったからね」
「まあ、そう難しいことはしないよ。ラクアが戻ってきた時にすぐリクルート召喚に移れるように場を作っておこうって話だ。というわけで、アイリス」
「何? パトリック?」
「飲み散らかしたポーションやらアルコエーテルやらが残っているから、それを片付けてこい」
「うっへー……それはたしかにあたしの仕事だね……」
とぼとぼとアイリスが片付けに向かう。
「あ、あの……シュン……私は今のうちにメールを返しておこうって、思うんですけど……昨日の晩にも数通届いてて……」
「それもやっておかないといけないか……わかった。また返答に困ったメールがあったら言ってくれ」
「わかりました……すぐに言います」
そう言って、てくてくとモニカは自分のデスクに戻っていった。
「じゃあ、わたしは――」
「あかりは俺と一緒に来てくれ。召喚部屋の片付けに人手が必要なんだ」
言葉を遮り、そう伝える。
あかりの仕事は召喚がされた後に大変になるのはわかっているが、今の俺たちの人員の少なさを考えると手伝ってもらうしかない。
「はー……だるいけど、わかったわ」
盛大なため息をつきながらも、あかりは素直についてきてくれた。
◇
開発室から扉を挟んだ向こうにあるスペースは本来、在庫やグッズなどを一時的に保管しておくために作られた空間だった。
そこを俺たちは召喚のための場所としても利用している。開発室のど真ん中で召喚を行ってしまうと色々な面倒が生じてしまうからだ。
「それで、わたしは何をしたらいいの?」
「天井をきれいにしておく必要があるんだ。俺が下で踏み台を支えてるから、あかりが拭いてくれ」
俺の言葉に一瞬、あかりは考えるような素振りを見せ、尋ねてきた。
「わたしが支える方じゃダメなの?」
「何かあった時にあかりじゃ俺を支えるのは難しいだろう? あかりは軽いから、俺よりも向いてると思うんだ」
「……まあ、そういうことならいいけど」
持ってきた雑巾を手にあかりが踏み台に登っていく。
この上に立てばなんとかラクアでも天井に届くことは分かっている。ラクアよりも背のあるあかりであれば、そう無理な体勢をとらずとも拭くことはできるだろう。
「わたしを喚んだ時も、こういうことはしてたの?」
上からあかりの声が聞こえてくる。
「そうだな。あの時は俺が1人でここをきれいにしたんだよ」
踏み台を支えてくれる人もいなかったから、なかなかふらついて緊張感のある清掃となってしまったことを覚えている。
そういえば、あの時もアイリスはポーションの瓶を開発室中に転がしていたな。
……あいつは変わらないなと思うと自然と笑みがこぼれてくる。自分でも気づかないうちに身体も揺れてしまっていたのか、
「ちゃんと支えててくれる? 揺らされると怖いんだけど」
今度は上からお叱りを受ける。
「悪い悪い。ちゃんと押さえておくから――」
そう言って、俺は上を見上げてしまっていた。
自然とあかりの均整な下半身が目に入ってきてしまって、慌てて顔を伏せた。
「ちょっと、また揺れてるんだけど」
「わ、悪い」
顔を伏せたまま答える。
目に入ったのは一瞬だっていうのに、白い肌の感じとか、その奥にあったものとかがすぐに浮かんできてしまった。記憶って卑怯だ。英単語とか数式とかは何億回見てもなかなか浮かんでこないのに。
……さっき、あかりが少し考えていたのはこういう状況になってしまうからか。
自分の考えのなさを突きつけられるようでどうにも居心地が悪い。
俺から声をかけることもできず、無言の時間が流れる。
しばらくして、
「あのさ、ちょっと聞いてもいいかな」
また、上から声がかけられた。
今度は絶対に上を向かないという決意と、動揺を表に出さないぞという覚悟を持って答える。
「なんだ? 急に改まって」
「その……今日、またリクルート召喚をするのよね、わたし以外に」
「そうなるな」
「わたしって、ここにいていいのかな」
「いいのかなも何もいてくれなきゃ困るよ。今日喚ぶのはライターで、『えいえんソフト』のメイン原画担当はあかりなんだから」
「そっか。まあ、そう答えるよね」
天井を磨く音が耳に届く。ちゃんと真面目にやってくれているようだ。
「とりあえず、俺はあかりがいてくれてよかったと思ってるよ」
「天井を1人で掃除しなくて済むから?」
「まあな。あかりがいると便利だよ」
「それだとわたしの存在価値、モップぐらいになっちゃうんだけど」
「さすがにもっとそれ以上は役に立ってるよ」
答えると、上のあかりが笑ったのか踏み台が少し揺れた。
「あとは……今日、またリクルート召喚をしようと思ったのはあかりがいたからだよ」
「わたしがいたから?」
「ああ。あかりを喚んだ時、俺たちにはこの手しかないんだってリクルート召喚に手を出した。もちろん、あの時だって博打覚悟だった。けど、俺はその博打に勝ったって思ってるんだよ。ガチャでいいの出てきたなって」
「ガチャって。モップとさして変わらないじゃない」
今度は例えるのにも失敗してしまったようだ。
自分のセンスのなさによる評価なので甘んじて受け入れるしかない。
「ま、当たりを引いたからこそ、またリクルート召喚で良いやつが来てくれるんじゃないかって俺は思ってるわけだ」
例え下手だと思われようとそう思っているんだからしょうがない。
「よし、天井拭き終わったわよ。ほら、降りるからちょっと離れて」
上からかけられた声に、俺は慌てて距離を取ったのだった。
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